親子同時襲名「尾上菊五郎」が11歳の息子「菊之助」へ伝えたい言葉。歌舞伎役者として生きる《宿命》、親子で乗り越える葛藤の日々
ちょうど11、12歳の頃、父に楽屋で「おまえ、もういい加減にしろよ。いつまでも遊んでんじゃねぇ」とこっぴどく叱られて、ようやく気づくという。気づくのが遅すぎました(笑)。
「心情を大事にしなさい」
ただ、しっかりしているとはいえ、『道成寺』は高いハードルです。恋というものをまだ知らない年頃の子に、鐘に対する執念がわかるのか、というと難しい。

菊之助には普段から「心情を大事にしなさい」と伝えています。それは『盛綱(もりつな)陣屋』の小四郎でも『鼠(ねずみ)小僧次郎吉』の蜆(しじみ)売り三吉でも、『ファイナルファンタジーX』の祈り子でもそうです。
もちろん古典では伝承された型をしっかりと教えますが、ただ型をなぞるのではなく、毎日違ってもいいから役の心情を何より大切にしてほしい、と。
ですから、『道成寺』という作品が理解できるよう、公演前の4月には和歌山の道成寺に一緒に行く予定です。ご住職さまの絵とき説法を受けて、清姫の心情を少しでも捉えてくれたらと思っています。
歌舞伎役者は、初日が開いて毎日舞台に立ち千穐楽に向かうにつれて何かを摑み、そしてまた新しい月が始まる。そうやって芸が熟成されていく。人生経験を重ねることで、役の捉え方も変わってくる。
なので、日常をどう過ごすか、どう生きるかも大切な修業です。
私が10代、20代の頃は恵まれた環境だとわかりつつも、いくら頑張っても成果が出ずに悶々としていました。祖父や父のようにはなれないんじゃないかという漠然とした不安がずっとあって。

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