文科省の博士学生経済支援プログラム、十分な検証なき「日本人優先」検討の危うさ。担当課は留学生誘致への影響を調査せず

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そもそも20年近くという期間で比較すると、日本人の博士課程進学者は大きく減少している。それを補ってきたのは留学生だ。留学生事情に詳しい大学関係者は、「留学生が日本人学生の枠を奪っているかのような一部ネット上のバッシングは、高度外国人材政策と一致しないばかりか、人材を集めるのに苦労している大学の現実とも異なる」と指摘する。

SPRINGが日本人や留学生の進学に与える影響や効果を知るためには、受給者や大学へのアンケート調査が必要なはず。しかし髙橋氏は、「調査はしていない。これからも調査する考えはない」という。

コスト意識の欠如

その理由について、「SPRINGはそもそも留学生を支援するために始めたものではない。主目的ではないことの調査にコストやリソースを割けない」という。

しかし、SPRINGの公募要領には「日本人学生のための支援制度」であるという記述はない。髙橋氏に公文書上のどこに根拠があるのか尋ねると、「公文書から読み取るのは難しいかもしれないがそういう事業だ」「海外の研究者の受け入れを担当するのは別の部署。SPRINGを人材政策課で担当している時点で、留学生の受け入れが主目的にはならない」と主張した。

アンケート調査は、事業全体の費用と比べればはるかに少ない金額で済むはずだ。そもそも制度変更を検討する以前に、事業の費用対効果を測るうえでも調査は必要だろう。コストを理由に調査しないことを正当化するのは、むしろコスト意識が欠如しているといえる。

急激な少子化が進む中、足元だけでなく中長期的に「博士人材を確保する」という困難な目標を達成するためには、留学生を増やすことは欠かせない。「留学生の担当ではない人材課がSPRINGを担当している」ことは、「SPRINGの主目的が日本人学生支援である証し」にはならないだろう。

一般的に、省庁の政策については「国益よりも“省益”」という考え方がよく批判される。「どの課の担当かどうか」は省益よりもさらに小さい“課益”の話だ。官僚も政治家も、必要な調査を基に十分に検証し、合理的な政策決定を行うべきだ。その基本的なことすらできなければ、科学技術立国はますます遠のきかねない。

本記事はダイジェスト版です。詳報記事は「東洋経済オンライン」のサイト上でご覧いただけます。

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奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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