文科省の博士学生経済支援プログラム、十分な検証なき「日本人優先」検討の危うさ。担当課は留学生誘致への影響を調査せず

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SPRINGがそうした学生を日本に呼び込む後押しになるのであれば、受給対象を原則的に日本人にする、あるいは支援の枠数や金額で差をつけて日本人を優先するといったような変更をすれば、留学生の獲得に悪影響を及ぼすおそれはないのか。

文科省でSPRINGを所管する科学技術・学術政策局人材政策課に問い合わせると、取材に応じた課長補佐の髙橋佑也氏は、「SPRINGは日本人が博士課程に進む後押しになり、科学技術力の向上につながる」とする一方、「いま日本の博士課程にいる留学生は、SPRINGがなくても日本に来た人たちだと思っている」と述べた。

髙橋氏は2つの根拠を挙げる。

1つ目は制度の認知度だ。「SPRINGは(2021年度に始まった)新しい制度で知名度がない。日本人なら当然知っているだろうが、海外の学生が知っているとは到底思わない」「海外の学生は、博士課程の入試に合格した後になって初めて、大学から(SPRINGなど)支援制度の説明を受ける」と説明する。

「認識が足りなかった」

だが、これは事実誤認だ。日本の大学の博士課程への進学を検討する場合は、出願より前の段階で指導教員候補を探して面談を受けるのが一般的。その際に経済支援の説明が行われるため、そこでSPRINGを知ることになる。この点を指摘すると、髙橋氏は「認識が足りなかった」と述べた。

2つ目の根拠は、SPRING開始以降の博士課程入学者数のトレンドだ。日本人は「長期間にわたり減少していたが、ここ数年は増加してきた。要因にSPRINGがあるのではないか」とする一方、留学生は「増加傾向が制度を始める前と後で変わっておらず、留学生が日本に来るかどうかとSPRINGは関係がないと思う」と話す。

博士課程入学者数の推移。緑色が留学生(出所)文部科学省「博士後期課程学生支援に関する参考資料」

この推論はほかのさまざまな要因(為替、入国規制、奨学金制度、各国の景気や政治情勢など)をカバーしておらず、単純相関(2つの変量の間の相関関係)を因果関係であるかのように混同している。

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