本作を語る上で欠かせないのが、カメラを一度も止めずに撮影されている巧妙なワンカット映像です。ただし、単純に話題性のために使われた技法ではなさそうです。冒頭の早朝に起こった家宅捜索シーンからリアルタイムで起こっているような生々しさを作り出しています。学校に行く子どもを起こし、朝食を食べさせるはずだったいつもの日常が一気に崩れた家庭を目撃しているよう。武装警察を前にして驚きのあまり粗相してしまう少年の身に何が起こっているのか、最後まで見届けたくなります。つまり、感情移入させる効果を最大限に狙った撮影方法だと言えます。各話、約60分間のワンカット映像でそれぞれ異なる緊迫感をもれなく味わえます。
SNSの悪影響を受けた今どきの若者

思春期の子どもが身近にいる大人は余計にゾッとするような話の展開です。それにしても、現実的な物語がNetflix歴代トップ5に入るほど人気を得るとは誰も予想していなかったことなのかもしれません。現に企画が持ち込まれた段階でAmazonプライム・ビデオのアメリカ製作トップは「アドレセンス」を見送ったことが報じられています。「世界的なアピールに欠ける」という判断だったそうです。
最終的に受け入れたNetflixがこれほどのヒットを見込んでいたかどうかは定かではありませんが、10代のいじめと自殺問題を扱ったドラマ「13の理由」が過去にヒットした影響は多少なりともありそうです。
「アドレセンス」が世界的にヒットした理由の1つとして、インターネット時代の今は国や文化が違えども社会問題を共有しやすく、具体的であればあるほど誰でも身近に感じやすいことが大きいのではないかと思います。たった4話の中で、少年と父親の一挙一動から現実社会の様々な角度の問題を投げかけています。なかでも印象的なのがSNSの悪影響を受けた今どきの若者の心の闇を見つめた描写です。
とは言え、そんな子どもたちの様子を多くの大人たちは実感しにくいものです。学校から帰宅すると自宅の部屋でスマホ片手に静かに過ごしている子どもの姿を見ていると、自分の子どもだけは安全だと思うのは無理もありません。学校の成績がそれなりに良ければなおさらです。ジェイミーの親もそうでした。
では、子どもたちはいったい何を考えているのでしょうか。ジェイミー少年が通う学校で刑事たちが聞き込みする2話は、その一端を捉えています。「人気や見た目がとにかく重要」と語る生徒の言葉からはルッキズム至上主義が浮かび上がり、インスタグラムで使われる絵文字に意味を持たせて使い分けながらサイバーいじめに走る実態も見えてきます。ゆらぎがちな自尊心を満たそうと、ミソジニーを唱えるマノスフィアのインフルエンサーが繰り返す発言に耳を傾ける子どもの姿があるのです。細かな描写に違いがあっても、SNSの悪影響を受けた子どもたちの姿は日本の子どもたちと重ね合わすことができそうです。
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