「バラエティー豊かと言えないバラエティー番組」は変わるか? "金光氏退任"よりも注目したいフジテレビ《覚悟の発表》

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団塊世代と団塊ジュニア世代が見てくれるからと、芸人中心の「楽しくなければ」なバラエティーを作っても、40代以下にはそっぽを向かれる。彼らは今後の消費の主役なのに、上の世代しか見ていないようでは、広告主に評価されない。

東京都知事選挙で石丸伸二氏や安野貴博氏が票を集め、衆議院選挙では国民民主党が躍進したように、若い世代が社会を動かし始めている。今までの番組作りに決別する必要がある。芸人の組み合わせで番組を企画していてはもう通用しないのだ。

それに、ドラマに続いてバラエティーも、ネットフリックスなどの配信事業者が潤沢な制作費で作ったもので十分になっている。共感はできるがスペクタクルはない、せせこましいドラマより、テレビが描けないエグい詐欺師や新幹線が爆破される物語のほうが面白い。バラエティーもテレビより「攻めてる」企画が、配信なら問題なく見られる。

今後のテレビはバラエティーやドラマをいったん忘れて、人々に何が必要かを出発点に考えていくべきだ。その意味で、フジテレビが言う「原点」「公共性」「社会の公器」などのキーワードは正しい。視聴者一人ひとりにとって意義がある番組を作らなければ、メディアとして存在する価値がなくなるのだ。

「捨てる」ではなく「アップデート」が必要だ

ただ、「楽しくなければテレビじゃない」からの脱却は、楽しさの否定ではないはずだ。楽しいのはもはや当たり前、テレビのベース、その上に何を乗せるかが今後問われる。

だから、「楽しくなければ」からの脱却とは、捨てることではなく、アップデートなのかもしれない。「楽しさ」が核なのではなく、「何を楽しく届けるか」が大事なのだと思う。

フジテレビはそれを議論する「リブランディング・ワーキング」を立ち上げ、中堅若手の声を吸い上げるとしている。これは、人権・コンプライアンス関係の課題と同じく、必死になって取り組むことになるだろう。そうしないとCM収入が戻らないのだから。

だとすると、ひょっとしたらフジテレビはこれからのテレビを開拓する最先端の考え方を見いだせるのかもしれない。1980年代にそうなったように、令和の世に求められる新たなテレビを切り開く可能性だってある。

ほかのテレビ局、キー局だけでなくローカル局も、自らの中にある「楽しくなければ」の精神を脱却する時だ。そうしないと、またフジテレビに置いていかれるかもしれない。未来を見つめた新たな競争を、テレビ業界全体で始めてほしいと切に思う。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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