さらに、下水道インフラの管理のあり方を根本から見直すことも検討されている。とくに焦点となっているのが「点検頻度の基準」と「非常時への備え」だ。
現在の制度では、腐食や損傷のリスクに応じて点検頻度を設定している。例えば、腐食リスクが高いとされる管は、5年に1度以上の定期点検が義務づけられている。
しかし、今回のように被害が広範囲に及び、人命にまで関わる事態となったことで、「壊れやすさ」だけでなく「壊れたときに引き起こす社会的影響の大きさ」も新たな基準に加えるべきだという意見が出ている。具体的には、次のような条件に応じて、点検の頻度や優先順位を見直すことが求められている。
・ 地下深くに埋設され、発見や修理に時間がかかるもの
・ 緊急輸送道路の下や、病院・学校など重要施設の近くにあるもの
・ 軟弱地盤や地下水位の高い場所に設置されているもの
リダンダンシーをどう確保するか
また、事故直後の対応のあり方も重要な検討課題となっている。今回のように事故が発生した直後でも、家庭や事業所からは通常どおり風呂や洗濯の排水が流れ続けるため、汚水の流下を止めることはできない。下水道使用の自粛を呼びかける必要があり、場合によっては河川への緊急放流や仮設処理施設の導入も検討せざるをえない。
こうした事態を見越して、平時からリダンダンシー(予備性)を確保することが欠かせないとされる。リダンダンシーの確保には、例えば以下の取り組みが考えられている。
・ ほかの幹線や処理区と連絡する連絡管の整備
・ ポンプ場を処理場化するなど、処理区を分割して負担を分散させる
・ サテライト型の小規模処理施設や、既存の貯留施設(雨水調整池など)を活用して水位を下げる仕組みを確保する
さらに、こうした設備を本当に機能させるためには、点検・調査など日常の維持管理を容易にする工夫も不可欠だ。具体的には、マンホールの間隔を見直したり、光ファイバーセンサーを導入して地下の異常を遠隔で常時モニタリングできる仕組みを作ることが検討されている。
ただし、こうした仕組みは理想的ではあるが、現実には簡単ではない。複線化には膨大な工事費用と用地が必要であり、サテライト型施設も場所や運用コストの課題を抱えている。
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