現在、下水道事業は全国的に深刻な資金難に直面しており、老朽化した管の更新もままならない自治体が少なくない。本来、下水道事業は使用料によって賄われる独立採算が原則であるが、実際には多くの自治体で税金(一般会計)からの補助に依存しているのが実情だ。事業全体の健全性は揺らいでおり、楽観視できる状況にはない。
こうした現実を直視するなら、必要な対策を進めるには、下水道使用料の見直し、一般財源からの投入増加、国からの補助金増額といった、痛みを伴う選択を避けて通ることはできない。
捉え直したい八潮事故の「4つの教訓」
今回の事故は、インフラが一度損傷すれば、人命の危機、地域の生活、交通、経済活動など多方面に深刻な影響が波及することを、私たちに突きつけた。これを「特殊な事故」として片づけず、今後の教訓として以下の観点から捉え直す必要がある。
1つ目が、予防的措置の重要性だ。被害が顕在化する前に兆候を捉え、対応する「予防」の思想こそが、インフラを支える根幹である。「壊れやすさ」だけでなく「壊れたときの影響の大きさ」まで考慮に入れることが求められる。
2つ目は、点検方法・頻度の見直し。現行制度ではリスクのある箇所の定期点検が定められているが、地盤条件、管の大きさ、周辺施設の重要性などを加味し、よりきめ細かなリスク評価指標を構築する必要がある。
3つ目が、維持管理に対する長期的視点の確立だ。事故の背景には、高度経済成長期に整備された下水道網を十分に更新・維持できなかった構造的な問題がある。インフラの寿命は数十年単位であるにもかかわらず、短期的な予算や人員体制に左右される自治体運営とのギャップが浮き彫りとなった。
インフラの維持管理には膨大なコストが伴う。下水道使用料の適正化、一般財源からの支出拡大、国からの補助金強化、あるいはインフラの削減など、未来を見据えた議論を避けず、持続可能なインフラ管理の仕組みを築いていかなければならない。
4つ目が、インフラと暮らしの関係性の「可視化」である。インフラは地下にあるがゆえに、人々の意識からは見えにくい。しかし、下水が流れなければ生活は成り立たず、「見えないインフラ」は暮らしと直結している。今回の事故を契機に、インフラと生活の接点を社会全体で共有し、支える意識を高めていくことが重要だ。
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