トランプ政権の大学攻撃の本質と大学の矜持(上)保守派の長期戦略の一環、リベラル派の最後の砦に迫る

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タスクフォースの動きは早かった。3月3日、反ユダヤ主義へ十分な対応をしていないとの理由でコロンビア大学との契約金5140万ドルの凍結の検討を通告、7日には助成金4億ドルを取り消したと発表した。コロンビア大学は教育省の「5つの大学での反ユダヤ主義の状況報告」で対象となった大学の1つだ(ほかはノースウエスタン大学、ポートランド州立大学、カリフォルニア大学バークレー校、ミネソタ大学)。さらにタスクフォースは13日に9つの改善要求を列挙した書簡を出す。最終的にコロンビア大学は政府の要請に応じた。

大学の非課税措置取り消しまで示唆

コロンビア大学の次はハーバード大学だ。3月21日に「ハーバード大学に対する連邦契約と助成金の包括的な検討を開始する」と発表(契約金は2億5560万ドル、助成金は複数年で87億ドルが対象)。4月3日には、契約と助成金の継続に必要な10項目を記した書簡を発出した。さらに14日に「もし納税者の支援を受け続けたいのであれば、エリート大学は真剣に問題に取り組み、意味のある改革をすべきときである」との声明を出し、22億ドルの補助金の打ち切りを表明した。その翌日には、トランプ大統領が自身のSNS「Truth Social」で、ハーバード大学の非課税措置を取り消す可能性があると示唆した。

ほかの大学では、4月8日に教育省がコーネル大学への助成金7億5000万ドルを凍結したと発表した。また、4月15日にはプリンストン大学も研究助成金2億1000万ドルを凍結された。2024年度の助成金は4億5500万ドルだったから、凍結解除がなければ、半分以下になる。

公民権法違反を理由に攻撃されたのがペンシルベニア大学だ。教育省は、2月5日の「女性スポーツから男性を排除する」大統領令に基づき、3月19日、トランスジェンダーを女子水泳チームに所属させたことを理由にペンシルベニア大学への助成金1億7500万ドルを凍結すると発表している。資金難に直面し、新規採用や給与引き上げを凍結しているペンシルベニア大学は大学のHPから「DEI」の文言を削除した。

こうしたトランプ政権の資金提供凍結措置に対して、マサチューセッツ工科大学は凍結差し止めの訴訟を起こし、裁判所は凍結の差し止めを認める判決を下した。4月14日に学長は、「最近の政府の行動はMITの正常な機能に対する干渉である。私たちは連邦裁判所に訴えることで政府の行動に対応する」との声明を発表した。

トランプ政権は、反ユダヤ主義と公民権法違反を口実とし、助成金などの凍結、打ち切りを武器に教官、職員の採用、昇進といった学内行政からカリキュラムの内容にまで介入しようとしている。リベラル派の最後の砦となった大学がそれをはね返せるかは、ひとえに財政状況にかかっている。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』(中公新書)。

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