トランプ政権の大学攻撃の本質と大学の矜持(上)保守派の長期戦略の一環、リベラル派の最後の砦に迫る

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

SNSの急速な発展という追い風もあり、メディア攻撃は成功した。保守派のメディアやSNSはフェイク・ニュースや陰謀論を流し続け、主流派メディアを衰退に追い込んだ。国民の間で主流派メディアに対する信頼度は急速に低下している。

そして今、最大の戦場は教育になっている。1980年の最高裁判決で教室内での「十戒」の掲示は違憲とされたが、2024年6月、ルイジアナ州議会は教室に「十戒」を掲示する法案を可決している。また、公立学校での聖書輪読などは違憲とする判決が1963年に下っているが、保守派が優勢なテキサス州やフロリダ州では聖書の授業が正規の授業として認められている。保守派のキリスト教エバンジェリカル(福音派)は「宗教の自由」を掲げ、非キリスト教徒に対する差別行為を正当化しようとしていて、保守派の判事が多い最高裁もそうした主張を容認している。保守派は「宗教戦争」で確実に勝利を収めつつある。

「DEIは公民権法違反」リベラルな大学を狙い撃ち

宗教以外でも保守派は攻勢を強めている。トランプ大統領は1月21日に「違法な差別を終わらせ、能力主義を回復させる」大統領令を出し、公立学校での「DEI(多様性、平等性、包括性)教育」を禁止した。リベラル派のシンボルであったDEIを学校教育から排除するのが狙いだ。1月29日にトランプ大統領が出した「K-12(公立の小中高校)における過激な教育を終わらせる」大統領令を受け、教育省は、トランスジェンダーが女性トイレを使用するのを禁止するよう公立学校に命じた。これらの命令に従わない場合、連邦政府の補助金を停止すると、教育省が通告している。

保守派は、その法的根拠を公民権法に求めている。公民権法はもともと人種差別を禁止する法律で、むしろDEIと相性がいい。ところが保守派は、黒人など少数派を優遇するアファーマティブアクションのような格差是正、機会均等を目指す措置は、白人に対する“逆差別”だと主張し、粘り強く裁判闘争を継続してきた。ついに2023年、最高裁はハーバード大学が入試でアファーマティブアクションに基づき黒人を優遇し、ユダヤ系とアジア系を差別していると判断した。保守派の大きな勝利である。それでも多くの大学はDEIに基づく入学選考、人事、カリキュラム作成を続けているため、保守派は大学のこうした制度を廃止に追い込むことに照準を合わせた。

政権発足直後から大学攻撃は計画されていた。大統領就任式から2週間後の2月3日、司法省、教育省、保健福祉省は「反ユダヤ主義と戦うタスクフォース」の結成を発表した。「反ユダヤ主義はわが国の理想に反するものである。本タスクフォースは、学校での反ユダヤ主義を終わらせるというトランプ大統領の新たな約束を具体化する最初のステップである」と、責任者レオ・テレル司法省上級弁護士は語っている。

立案者はトランプ大統領の懐刀であるユダヤ系のスティーブン・ミラー次席補佐官だ。タスクフォースは週1回、毎回場所を変え、秘密裡に会合を重ね、調査対象の大学を絞り込んだ。その目的は、エリート大学の力をそぎ、トランプ大統領の言う過激派、つまりリベラル派から取り戻すことで、反ユダヤ主義は口実に過ぎない。

次ページ助成金差し止めで脅し、提訴する大学も
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事