トランプ関税の効果と決定の内側(下)関税引き上げの最終目標は所得税廃止。「恐怖戦略」成功なら次の標的は通貨

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

経済問題に精通しているランド・ポール上院議員は、トランプ大統領の「国家非常事態であり関税引き上げが必要だ」という主張を批判し、「議会は関税と貿易を規定する憲法上の権限を持っている」と、議会がトランプ大統領の暴走にブレーキをかける必要性があると主張している

しかし、こうした意見表明をする議員は少数派だ。ある上院議員は「皆が関税引き上げの影響を恐れている。だが誰も大統領を制御したいとは思っていない」と本音を漏らす。多くの共和党議員は、圧倒的な力を持つトランプ大統領の前で、ひたすら“沈黙”を守っている。

多くの議員が望んでいるのは、相互関税の実施ではなく、関税をめぐる外国政府との交渉だ。トランプ大統領が相互関税一部の90日間の停止を決めたことで、胸をなでおろした人々も多いに違いない。125%の関税を課される中国との関係がどうなるか注目されるが、いつまでも“チキン・ゲーム”を続けることはできないだろう。

外交交渉の兆しは見られる。たとえば、EUは4月9日、大豆、バイク、オレンジ・ジュースなどアメリカ製品に報復関税を課すことができると発表したが、具体的な対抗策は示さなかった。その一方で、「EUはアメリカの関税が不当で破壊的であり、米EUの双方だけでなく、世界経済にも害をもたらすと考える。EUはアメリカと交渉で結果を出すことを望んでいる」と、交渉の余地があることをにじませた。

実際、ベッセント財務長官は「70カ国が貿易交渉をしたいと連絡してきた」と語っている。交渉を求めてきている国として、日本、ベトナム、韓国などの名前を挙げている。ベッセント長官は「日本は素早く対応したので、交渉の順位で優先的に扱われるだろう」とも語っている。こうした状況からすると、非現実的ともいえる高い相互関税率を課したのは、最初から目的は外交交渉にあったのかもしれない。

関税論議の背後にあるイデオロギーの対立

ただ、関税を交渉道具や減税原資のようなテクニカルな問題と捉えると、本質を見誤る。その背後には税制をめぐる保守派とリベラル派のイデオロギー対立がある。保守派の関税引き上げの究極の目的は所得税の廃止にある。

そう聞いても、日本人にはピンとこないだろう。アメリカでは建国以来、関税収入が連邦政府の歳入の最大の収入源で、19世紀には歳入の80%を占めたこともある。連邦所得税が導入されたのは憲法修正第16条が批准された1913年である。同修正条項には「連邦議会はいかなる源泉から生ずるものであっても所得に対して税を徴収する権限を有する」と書かれており、同時に累進所得税が導入された。これ以降、アメリカでは所得税が歳入の大半を占めるようになる。

次ページ究極の目標は所得税を廃止し関税に置き換え
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事