地球温暖化が世界の金融システムを破壊する イングランド銀行のカーニー総裁が警告

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米バージニア州からカリフォルニア州のサンベルト地帯の一部とスペイン、アイルランドで発生した、住宅バブルによって金融危機が起きてから8年がたつが、世界経済は今も完全には立ち直っていない。同じように気候変動の影響が、金融システムと実体経済のどちらにも予見できない形で波及するのは想像に難くない。

国際的な保険会社は、すでに異常気象がもたらす莫大な損害に頻繁に見舞われている。今後、地球温暖化による被害を受けた人々が化石燃料関連の(保険に入った)企業に補償を求めようとすれば、計り知れない賠償に直面しかねない。カーニーがスピーチを行ったのが、300年の歴史を持つロイズ保険組合だったのは偶然ではない。

世界最大規模の企業も多く存在する資源採取産業は、いつか存続が脅かされるかもしれない。各国政府が二酸化炭素排出のより厳しい規制に乗り出せば、石油とガスの掘削に対する何十億ドルもの投資が無駄になり、産油国の財政も弱体化するだろう。

こうしたリスクは法的リスクと同様にもちろん不確かだが、カーニーは「可能性が低く見えるリスクが、より大きな時間の尺度で大規模な予期せぬ損失に変貌することは、誰もが痛いほど知っている」と語った。

国際金融の中心から発信する意味

カーニーがスピーチの中で指摘した以外にも、経済と金融の世界における影響の拡大は容易に想像できる。たとえば農業の分野では、農業従事者も彼らに融資する銀行も、実入りがいい農作物の生産に適さなくなった土地で損益を被るだろう。

また、気候変動の損害を阻止するための高コストの事業が、別の投資を締め出すこともあるかもしれない。たとえば、フロリダ州がマイアミを居住地として維持するために多額の借金をしていることで金利が高くなり、ケンタッキーの橋を修繕できない、といった具合だ。

こうした脅威は、どれも経済と金融に重大なリスクをもたらすほど大規模なスケールで起きるかはわからない。しかし、どれもが現実になる可能性は十分にあり、想像すらできないことも起こり得る。

カーニーのような立場の人間は、特にこうした問題に強い懸念を抱いている。保険会社やその他金融サービス業者が集結するロンドンは、国際的な金融リスクを管理する中心地だからだ。カーニーは、英国の株式市場の価値の19%は資源採取関連であることも指摘している。

金融政策に携わる人物で気候変動のリスクについて語ったのはカーニーが初めてではないが、直近の問題を山ほど抱えている現職の中銀総裁が、一見すると自らの権限外の事項について大々的なスピーチを行ったことは興味深い。

銀行や保険会社、大企業、公的機関といった影響力のあるその他の組織がこの問題に取り組まざるを得なくなるのは疑いようがない。カーニーのスピーチは、それを後回しするのではなく、一刻も早く取り組むための警鐘ととらえるべきだ。

=敬称略=

(執筆:NEIL IRWIN記者、翻訳:前田雅子)

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