“脱セブン”という言葉すら使いたくない。
セブン−イレブンのモデルを「後追い」することで、右肩上がりの成長を続けてきたコンビニ業界。しかし環境悪化を受け、近年は各社とも業績の伸び悩みに直面している。そんな中ファミリーマートは今期、大手で唯一既存店売り上げを伸ばした。上田社長が掲げる「ファミリーマートらしさ」とは。
(週刊東洋経済1月26日号より)
業界誕生から30年。急成長を遂げたコンビニエンスストア業界にも、今や店舗数の飽和や異業種との競争、個人消費の停滞、オーナー不足といった暗雲が立ちこめる。
2006年度は新規出店による拡大も限界を迎え、王者セブン‐イレブン・ジャパンをはじめ大手チェーンは軒並み減益に陥った。今期に入っても歯止めはきかず、業界の既存店売上高は8年連続で前年を下回る見通しだ。
だが今期、大手で唯一、既存店売上高を伸ばしているのがファミリーマートだ。その健闘ぶりは一過性か、それとも同社に本質的な変化が起きているのか。
就任から6年目、自ら「三流」と言う上田社長が描く、コンビニ“第3の道”を聞く。
--コンビニ業界の苦戦を尻目に業績好調ですね。
相対的にうちがよくなったという感覚です。ただ、07年中間期は、足場固めの結果が数値として表れている。ベースが出来上がりつつあると思っています。
--一過性ではない?
今や大都市には100メートル圏内にすべての大手コンビニがある。選ばれる存在でなければ競争に勝てない。商品面は他社も追随する。では、他チェーンに負けないものは何だろう。それはサービス、クオリティ、クリーンネス。当たり前のようですが、その当たり前を継続できる企業はなかなかない。頭文字をとってS&QCと表していますが、それらをきっちりこなせれば差別化につながる。そう宣言したのが3年前です。
--コンビニ業界はすでに実現している気もしますが。
当時は「今ごろS&QCか。何も考えてないんじゃないか」と言われた。しかし、100%の浸透は本当に難しい。あのトヨタさんですら、毎日カイゼンと言うわけです。毎日言わなければならないのは、できていないからですよね。あれだけ優良な企業でも、理念の徹底度は70%くらいだろう。ましてうちは恥ずかしくて言えないレベルですよ。でも、それを逆にチャンスととらえた。できることがたくさんあると。
そのために何がいちばん簡単にできるか。ファミリーマートには名前どおり、家族的雰囲気というイメージがある。だからホスピタリティあふれる企業、店にしていこうと、若手中堅社員からボトムアップで持ち上がってきたのが「ファミリーマートらしさ推進活動」です。
ところが、ここで問題となるのが管理職。彼らは自分の業績を上げるために、過去の経験を基に指示するんですよ。そこで言ったんです。「幹部の皆さん、こういうとき必ず妨害となるのは皆さんだ。もし3度そのような報告が上がれば、その管理職は飛んでもらう」。私は内気ですからクビとは言わない(笑)。
企業理念も15年ぶりに変えた。3年かけてこの活動を本部社員だけでなく、加盟店や、食品メーカー、物流など主要取引先にも広げていった。お客様からいただいたお褒めの言葉や成功事例を「ほのぼのホスピタリティ」という小冊子にして、加盟店や取引先にお配りし、月に1回、取引先が一堂に会してファミリーマート推進活動の発表会も開いています。一度ご覧になったら必ず感動されると思いますよ。
--コンビニはセブンがつくったモデル。それを超えられますか?
僕が社長に就任した当初は、セブンをベンチマークするための会議を定期的に開いていた。でもすぐやめさせた。われわれは規模で3番手。トップのたどってきた道を通るなら永遠に三流だ。それから商品も自分たちで考えるようになりました。今、うちの主力商品であるフライドチキン、ポテト、三つ星パスタ、デザートは、そのときにスタートしている。特に、今では年間で1億本売るヒット商品になったフライドチキンは、かつてセブンも販売していたが、においや加盟店の手間が課題で一度撤退した。同じ理由でうちもやっていなかったが、加盟店支援をしっかりすれば利益が出ることがわかった。中途半端だと愚痴が出る。いい加減だと言い訳が出る。本気だと知恵が出る(笑)。今ではどの会議でもセブンという名前は出ない。
セブンは今期3000店にフライヤーを導入します。この商品では、彼らがわれわれをベンチマークした。そういったことが随所にある。ですから「脱セブン」だとか、その言葉すら嫌いなんですよ。もうセブンを意識する必要はない。それが「らしさ推進活動」なんです。