では、ひとまず所得制限を撤廃して支給し、後で高所得者にだけ所得税を課せば、所得制限を撤廃しつつも所得格差を是正できる、という考え方はどうか。確かに、そうすることで、給付に所得制限をかけたのと同様の効果が得られる。
しかし、そもそも「給付」は課税対象ではない。給付を課税対象にしないと、所得税を課税しようがない。現行の児童手当は、課税対象でないから、税務当局に受給額の情報がない。さらにいえば、高等学校等就学支援金は、高校生やその親に支給するものではなく、都道府県が対象者が在籍する高校等に支給するものだから、所得税の課税対象にしたくてもできない。
おまけに、わが国では所得税の納税義務者の大半は確定申告をせず、源泉徴収を利用した年末調整しかしていない。そうした現状を踏まえると、児童手当を課税対象にするなら、年末調整の際に児童手当の受給額を報告する手間をかけなければ実現できない。
わが国ではそこまで大幅な制度変更をしないと、所得制限を撤廃しつつ所得格差を是正することはできない。
基礎控除を引き上げると所得格差が拡大してしまう
「年収103万円の壁」の引き上げをめぐって、基礎控除に所得制限をつけることに批判が出たが、これも所得制限をつけないと所得格差が拡大してしまう事態を招くからである。
現に、所得税の基礎控除には所得制限がある。合計所得金額が2400万円超になると基礎控除額が逓減し、2500万円超になると消失する仕組みである。基礎控除は、課税所得を減じる効果を持つ所得控除の1つである。
しかし、同額の基礎控除でも、直面する所得税率が高いほど税負担軽減効果が大きくなる。だから、納税者全員に基礎控除を同じ額だけ拡大すると、高所得者ほど、高い税率に直面しているから、減税額が大きくなる。そして、所得格差がむしろ拡大する。
確かに、基礎控除に所得制限をつけることで、税制はより複雑になる。だから、税制を簡素にしつつ所得格差を是正するなら、定額減税か税額控除という仕組みを使うしかない。同額の税額控除を与えると、高所得者も低所得者も同額の税負担軽減効果となる。もちろん、高所得者にも税額控除を与えるとその分だけ所得格差は是正できなくなるが、所得制限を設ける必要性は低くなる。
ところが、今般の「年収103万円の壁」の引き上げをめぐっては、税額控除の導入という議論には発展しなかったし、所得制限をつけない代わりに給付を課税対象にするという制度改正
ややもすると、物価高による生活苦に伴う現政権への不満から、現政権が維持しようとする現行制度をとにかく叩き壊さんばかりに大幅変更することにやんやの喝采を送っているかのようである。
しかし、制度が持つ性質をきちんと踏まえないと、欲する政策効果は得られない。所得格差の是正を求める声が強い割には、所得制限の撤廃を重視する発想は、矛盾が大きいことをしっかりと認識しなければならない。
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