この子を残して死ねない――国会でがん患者の声を紹介 なぜ「高額療養費制度」が見直されることになり、そして見送りになったのか
検討会に患者団体など当事者が不在だったこともあり、どんな影響が起きるか気付かれないままに話が進んでいた。
がんの治療中は働く時間が限られるため収入が減収する。しかも、社会保険料は利用する前年の収入が用いられる。治療中は治療費だけでなく、通院のための交通費などの雑費も増えるため、実際の生活への負担はもっと増える。
「重く受け止める」と石破首相
大阪医科薬科大学総合医学研究センター医療統計室室長の伊藤ゆり准教授は、WHO(世界保健機関)の「破滅的医療支出」の考え方を用いて、こう指摘する(*3)。
「収入から生活費を引いた額のうち、医療費が4割を超えてしまうと、貧困に陥るリスクが非常に高くなるとされている」
実際、今回の政府案では、すべての収入区分で医療費が4割を超えることが推計された。
当事者の意見を聞かずに政策を進めたことに対して、全がん連とJPAが「もっとていねいに議論しましょう」と何度も呼びかけてきた。彼らの働きかけで超党派議連「高額療養費制度と社会保障を考える会(仮称)」が発足し、今後の医療をどう変えていくべきかの真剣な議論が始まる。
石破首相も「議連の意見は重く受け止める」と発言する。
その一方で、新たに患者団体を検討会の委員に入れることには明言せず、「自己負担の上限額引き上げに関する議論は秋までに」と期限も区切り、患者団体が呼びかけている“ていねいな議論”をする気配は見せていない印象を受ける。
全がん連もJPAも厚労省の検討会の委員を務めたこともあり、議論する力は十分に持っている。彼らを検討会委員に入れて、今度こそ適切な議論につなげてほしい。
*1 直近の12カ月間で自己負担額の上限が3回超えたら、4回目以降は上限額を引き下げる制度
*2 高額療養費の支給実績として「現金給付(医療費の自己負担額を窓口で一度支払った後、高額療養費の自己負担上限額を超えた差額が保険者から還付されること)」のみのデータが会議で提出されていた。高額療養費の限度額に到達している患者や多数回該当に相当する患者は「現物給付(事前に高額療養費制度の利用が認定されることで、窓口では自己負担額の上限まで支払えばよい人)になっており、双方の数字で検証する必要があった。
*3 大阪医科薬科大学大学院医学研究科 がんプロフェッショナル養成プラン 主催セミナー「高額療養費制度と私たちの願い ~がんを生きる選択を守るために~ 」
*4 厚生労働省「第27回がん対策推進協議会」桜井なおみ参考人提出資料
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