この子を残して死ねない――国会でがん患者の声を紹介 なぜ「高額療養費制度」が見直されることになり、そして見送りになったのか

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この決定を「凍結」するため、全がん連とJPAは参議院予算委員会審議期間中に、前述のアンケートと署名を石破首相に「直接」手渡すことを切望した。

なぜ直接手渡したかったのか。その理由について、轟さんは参考人招致の10分あまりのスピーチの最後に、首相の人柄に寄せてこう語りかけた。

「好きな言葉が『ふるさと』とおっしゃった石破総理であれば、私どもに寄せられた3600名以上のアンケートをまとめたものをお読みになってくだされば、今年8月の初年度引き上げについても取りやめ、命のためにいったん立ち止まることをご英断してくださると、私は信じたいです」

このスピーチに石破首相は「これを聞いて、心震えない人間はいない」と答え、患者団体のために時間を作ることを約束した。そしてその2日後、約30分の面談が実現した。

なぜ高額療養費制度だったのか

そもそも、社会保障費の抑制が目的とはいえ、なぜ命に直結する「高額療養費の自己負担の上限額の引き上げ」が俎上に乗ったのか。それは、法改正の必要がなく、着手しやすかったからだ。

現在、国は「全世代型社会保障」とする新しい仕組みを構築している。社会保障制度は、現役世代(勤労者)で支えられている。だが、少子高齢化の流れで現役世代の社会保険料が増加の一途をたどるため、その負担感が問題視されてきた。

高額療養費の自己負担の上限額の引き上げについては、厚労省の検討会で審議されたが、その際の資料がずさんだった。

例えば、衆議院予算委員会で立憲民主党の川内博史議員が、厚労省に「検討会では何%の引き上げと説明したのか」と問いかけると、同省保険局の鹿沼均局長は「検討会では一律5~15%を示したが、具体的な数字は出していない」という趣旨の回答をした。

これを受け、川内議員が「最終的には、何%の引き上げになったのか」と何度も詰問すると、「いま計算したところ、(新たな収入区分の)650万~770万円では8万0100円が13万8600円へ、73%の引き上げ率になる」といった内容を話したという。

新聞などのメディアでこの引き上げ率の高さは話題になっていたが、厚労省が認めた形になった。

このほかにも、全がん連の理事で、一般社団法人CSRプロジェクト代表理事の桜井なおみさんは、高額療養費の支給実績について、データ不足により数字が過小評価されており(*2)、「検討会委員は高額療養費利用者が現役世代には少ないと誤認した可能性がある」と指摘した(*3)。

事実、がん患者の3人に1人は就労可能年齢(15~64歳)であり(*4)、その中には一定数の高額療養費制度利用者がいる。

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