赤いきつねCM「グルメ漫画の表現内」なのか検証 「頬を染めて食うのはデフォルト」は本当か
ただし、女子の食事姿に性的ニュアンスを持たせるのと同様に、近年は男子の食べっぷりをフェティッシュに描いた作品が増えつつあるのも事実である。典型的なのが『めしぬま。』(あみだむく/2016年~)で、さえない会社員がメシを食うときだけ見せる表情に、周囲の女たちがメロメロになる。
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ほかにも『イケメン共よメシを喰え』(東田基/2016年)、『男のやる気メシ!』(鬼嶋兵伍/2017年)、『小塚部長、ごはん一緒にどうですか?』(グリコ/2022~2024年)など、男性の食事シーンを性的ニュアンスを込めて描いた作品はいくつもある。
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そもそも食と性は表裏一体であり、食が性のメタファーとして用いられること自体は古今東西珍しくない。小説では谷崎潤一郎『美食倶楽部』、映画では『タンポポ』がわかりやすく有名だ。真偽のほどは定かでないが、節分の丸かぶり(今でいう恵方巻)の起源にも性的要素が絡んでいるという説もある。『食戟のソーマ』や『花のズボラ飯』の作画担当者がエロ系出身、『めしぬま。』や『男のやる気メシ!』の作者がBL系出身というのも食とエロの親和性を示すものだ。
食欲と性欲は密接な関係にある
そしてもうひとつ、食と性にまつわるマンガとして、藤子・F・不二雄『気楽に殺ろうよ』という作品を挙げておきたい。ある男が、異世界に飛ばされる。異世界といっても剣と魔法の世界ではなく、何も変わらない普通の世界。ただ、人々のモラルと価値観だけが変わっていた。その世界では食事は恥ずかしい秘め事でセックスはあけっぴろげ。そうとは知らず大声で朝食の催促をする男に、妻は「ご近所に聞こえるじゃありませんか!」と顔を真っ赤にするのだった。
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困惑する男に精神科医は言う。食欲は個体を維持するためのもので「個人的 閉鎖的 独善的」欲望であり、性欲は種の存続を目的とするもので「公共的 社会的 発展的」欲望である、と。同様に殺人も合理的紛争解決手段として公認されているという。そう言われればそうかも、と思った男はある行動に出るのだが……。藤子・F・不二雄ならではの価値観の逆転、ブラックな味つけに少しのエロスがあり、説明しすぎないオチも絶妙な傑作だ。
ことほどさように食欲と性欲は密接な関係にあるわけで、両者を結び付けた表現を過敏にあげつらうのはどうかとも思う。とはいえ、マンガ作品として描くのと、企業のCMで世に出すのとでは配慮すべきラインが違ってくる。性的うんぬんは別にしても、最初に述べたように、ジェンダーバイアスの観点からは批判されてもやむなしだろう。
どうせなら、「おうち編」と「職場編」を男女それぞれ同じシチュエーションで、同じカット割りで作ればよかったのではないか。その中でディテールに微妙な差があったりすると、見ているほうとしては、より面白いと思うのだがどうか。次回への課題として、ご検討いただきたい。
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