定年後いつ「お金を使うだけの時代」に入るべきか 公的年金だけで生活できる人は少数派だが…

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

現役生活と同じ収入、支出のパターンで年金を受け取れる年齢になったのであれば、まだ「積み立てながら運用する期間」を続けられますし、そうであれば年金の繰り下げ受給を考えたほうがいいでしょう。

勤労収入と年金収入だけでは少し足りないという場合であれば、「使いながら運用する期間」に入ったことになりますが、年金を受け取りつつ資産は引き出さずに全額運用を継続する、あるいは資産を引き出して生活費をまかない、年金は繰り下げ受給する、といった選択肢を考えることも可能になります。

いつから「使うだけの時代」になるのか

もう一つ、いつから「使うだけの時代」になるかを考える必要もあります。先ほど80歳以降を「使うだけの時代」としましたが、これも人によって異なるでしょう。

いつから「使うだけの時代」に入るのかという問題は、「いつまで資産運用を継続できるのか」を考えることでもあります。

『100歳まで生きても資産を枯渇させない方法』書影
『100歳まで生きても資産を枯渇させない方法』(幻冬舎新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

私は、資産運用から完全撤退するタイミングは、認知・判断能力の低下次第だと考えています。認知・判断能力が低下すれば、金融取引ができなくなるからです。

しかし何歳まで生きるかわからないのと同様、認知・判断能力がいつ、どのくらい低下するか、事前に知るすべはありません。

なお、京都府立医科大学大学院医学研究科の教授で認知症の臨床医をされている成本迅(なるもとじん)教授は、80代前半になると認知症の人は全体の20%程度になると指摘しています。認知症予備軍(軽度認知症)は20%前後、まったく発症していない人は60%くらいとのことです。

とはいえ、このようなデータから自分がどうすべきかを判断するのは難しいので、結局のところ、資産活用計画を立てる際は保守的に考え、80歳を一つの目安にするのがよいのではないかと思います。

ちなみに、80歳で一括売却をするとなると、「その時点でリーマン・ショックのような金融市場の波乱がないか心配だ」という声もあります。

これについては、80歳までの「使いながら運用する」時期に、株式や投資信託で運用している資産の売却を進めていくことで、少しずつ金融資産全体に占める株式や投資信託の割合を下げていくわけですから、これこそが対策になります。

80歳時点で「保有している金融資産のうち、株式や投資信託で運用している分の売却はほとんど終わっていて、残りの金融資産はほぼ預貯金のみ」という状態になっていれば、金融市場の波乱を心配する必要はないわけです。

もちろん、80歳までの「使いながら運用する時代」に運用がうまくいったり、想定よりも引き出し額が少なくて済んだりした場合などでは、80歳時点で想定以上に株式や投資信託などのリスク性資産が残っている可能性はあります。

しかし、それでも65歳時点から比べれば、リスク性資産の残高は減っているはずです。

このように、運用資産を売却しながら使っていくことは、保有する金融資産全体のリスクを低減させることにつながります。「使いながら運用する時代」は、「使うだけの時代」に向けたリスク軽減策を行う時期でもあるのです。

野尻 哲史 フィンウェル研究所代表

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

のじり・さとし / Satoshi Nojiri

合同会社フィンウェル研究所代表。1959年生まれ。一橋大学商学部卒。山一証券経済研究所(のちに同ニューヨーク事務所駐在)、メリルリンチ証券東京支店調査部(のちにメリルリンチ日本証券調査部副部長)、フィデリティ投信(のちにフィデリティ退職・投資教育研究所所長)を経て、2019年5月、定年を機に合同会社フィンウェル研究所を設立。資産形成を終えた世代向けに資産の取り崩し、地方都市移住、勤労の継続などに特化した啓発活動をスタート。18年9月より金融審議会の各種ワーキング・グループ、タスクフォース委員に就任。行動経済学会、ウェルビーイング学会会員。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事