「タイミーおじさん」平気で使う人たちの危うさ 事業者による「ドタキャン」はなぜ許されるのか

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仕事が長続きしない理由について、タカヒコさんは「睡眠障害と発達障害の影響ではないか」という。睡眠障害は一時は自転車の運転中に居眠りをするほど深刻で、学校でも会社でも連日のように遅刻をした。「会社はそのせいでクビになることが多かったです。自分が経営者でもクビにしたと思います」と打ち明ける。発達障害を疑い、医療機関を受診しようとしたこともあるが、初診まで半年待ちと聞いて諦めた。

話を聞きながら、タカヒコさんがスキマバイトでの理不尽な体験に激しく憤りながらも、スキマバイトをやめようとしない理由がわかったような気がした。

タカヒコさんによると、かつての職場でも労災を認めてもらえないなど数多くのひどい経験をしてきた。それに比べると、「スマホひとつあれば自由に気軽に働け、その日のうちにお金がもらえるスキマバイトのほうがまだまし」という。一方で「ほかのどこでも働くことができず、スキマバイトに行きついたと言われれば、そうかもしれない」と認める。

増えている「タイミーおじさん」

持論になるが、学生や本業を持つ会社員などはスキマバイトアプリを活用すればいい。しかし、スキマバイトの本質は不安定雇用である。それで生計を立てる人が生み出されるような仕組みには一定の規制が必要だ。日雇い派遣はまさにそうした理由で原則禁止された。国や行政は同じ過ちを繰り返すつもりなのか、それとも見て見ぬふりを決め込んでいるのか。

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タカヒコさんが最近は「タイミーおじさん」と呼ばれる人が増えていると教えてくれた。単に中高年の男性ワーカーというだけでなく、「覚えが悪い」「使えない」「スキマバイトくらいでしか働けない」「清潔感がない」といったニュアンスを含む。事業者やほかのアルバイトたちの間で、そうした男性を見下すときに使われる言葉だという。

タカヒコさん自身、現在は遅刻や欠勤はなく、いずれのアプリからの評価も高い。それでもあえて聞いてみた。あなたはタイミーおじさんですか? タカヒコさんは苦笑いをしながら「周囲からはそう見られているかもしれません」と答えた。

タイミーおじさん――。揶揄の対象としてそのような言葉を生み出し、もてあそぶような仕組みや社会に、私は危うさしか感じない。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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