「1丁の護身用の銃」巡り変貌したイラン家庭の姿 映画「聖なるイチジクの種」の制作の裏側

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翌日、イマンは娘のレズワンとサナに自分の仕事を明かすことにする。「今までどうして教えてくれなかったの?」という娘の疑問に、「家族の安全のためよ」と返した妻のナジメは、娘たちに、生活環境が変わるため、服装や態度、会話、付き合う友達も気を付けるようにと言い聞かせる。少しでも隙を見せれば糾弾されてしまうからだ。

だが実際にイマンに課せられた仕事は、反政府デモ逮捕者の起訴状を検事の指示通りに捏造することだった。これまで20年間、真面目に仕事に励んできたイマンにとって、それはなかなか受け入れがたいことであったが、上司からは「成功や家庭の安らぎを捨てるのか?」と説得され、その板挟みに苦悩する。

そんな中、不当な刑罰を科された市民たちによる反感の思いは日々募っていき、ついにマフサ・アミニさんの死をきっかけに街で暴動が起きる。だがイマンの娘たちも、ネットで拡散されている警察の暴力が当局によって隠蔽され、テレビのニュースではまったく報じられていないことに気づいていた。

夫のキャリアを守るためにも、政府に従順であるべきだということを説く母は、娘の交友関係にも口を出すようになる。そして母と、自由を求める娘たちの意見は真っ向から対立する。

銃が部屋から消えて家族は疑心暗鬼に

そんなある日、イマンはいつも銃を入れていたはずの部屋の引き出しから護身用の銃が消えていることに気づく。就任してすぐに銃を失ったことが当局に知られると、彼の評価はガタ落ちとなり、出世の芽はつぶされてしまう。

状況からして、銃がなくなったのは家の中であることは間違いない。だとすると隠したのは妻のナジメか、娘のレズワンか、サナか、あるいは――。だが、いったい誰が何のために? やがて家庭内に広がる疑心暗鬼の渦。そしてイラン社会の抗議活動はさらに激化し、家族の運命は大きく狂っていく――。

聖なるイチジクの種
政治的、宗教的に抑圧されてきたイランの女性たちがスカーフを脱ぎ捨てて反旗を翻した反政府デモ。その社会的構図は、家父長制で抑圧されてきた劇中の女性たちの姿にも重なってくる。©Films Boutique

2022年秋以降にイラン全国に広がった「女性、命、自由」をスローガンとした反政府デモ。きっかけは、ヒジャブと呼ばれるスカーフを適切にかぶらなかったことを道徳警察にとがめられ、身柄を拘束された22歳の女性マフサ・アミニさんの死だった。そこに警察の暴行を疑った市民が反政府デモのために立ち上がったことで広がった。

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