買収禁止命令に激怒、日本製鉄が米大統領を提訴 理不尽な米国政府にも引かない強気の勝算は

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1月7日、日本製鉄の橋本英二会長は記者会見で、アメリカ政府と裁判で争うことを表明した(撮影:梅谷秀司)

「バイデン大統領の違法な政治的介入により、CFIUS(対米外国投資委員会)の審査手続きが適正に実施されないまま、大統領命令に至った。到底受け入れることはできない」

日本製鉄の橋本英二会長兼CEOは1月7日に開催した記者会見で、冒頭の言葉で怒りを露わにした。日本製鉄による米USスチール買収についてバイデン米大統領は3日、大統領命令で禁止を命じた。これを受け日本製鉄とUSスチールは6日にCFIUSとバイデン大統領らを相手取って訴訟を提起した。

買収実現に向けた関門の1つがCFIUSによる国家安全保障上の審査だったが、CFIUSは結論を出さず、判断はバイデン大統領にゆだねられていた。

禁止命令に日本製鉄とUSスチールは猛反発、「国家安全保障問題に関する確かな証拠を提示しておらず、今回の決定は明らかに政治的な判断。米国憲法上の適正手続き及びCFIUSを規律する法令に明らかに違反している」と共同声明を発表し司法判断を仰ぐ。

訴訟では、不当な政治的介入により買収について正当に審査される機会が奪われたとして、大統領命令と審査の無効、適正なプロセスでの再審査を求めている。

妨害した競合トップやUSW会長なども提訴

「米国市場における自社の優位性確保を目的として、日本製鉄の米国参入をなんとしても阻止したいクリーブランド・クリフスの経営者は、USW(全米鉄鋼労働組合)の組合長と連携し、組合の有する強大な政治力を利用してバイデン大統領に働きかけた。事もあろうに、政治的な理由からバイデン大統領がこれに応じた」(橋本会長)

政府を相手取った訴訟と併せて、米国で2番目の鉄鋼メーカーであるクリフス社と同社のCEO、及びUSW会長に対しても訴訟を提起。共謀して買収を阻止するための違法行為を行ったとして、同様の行為の差し止めと多額の金銭的損害賠償を求めている。

日本製鉄・USスチールは、この買収が米国の経済・国家安全保障を強化すると主張してきた。経営不振のUSスチールは主要拠点の閉鎖を検討せざるを得ない状況。買収で日本製鉄から投資を得られれば、設備と雇用を維持し、競争力を高めることができるからだ。

日本製鉄は買収後のUSスチールの経営について、他国での事業も含めて米国政府の通商措置を妨げない、経営陣の中枢メンバーを米国籍とするなどを約束していた。しかしそうした努力は顧みられなかった。

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