約2兆円の買収に両大統領候補が反発。難局を切り抜けられるか。
鉄鋼メーカーが頭を悩ませているのは中国産鋼材の供給過剰だ。余剰鋼材が中国外に流出し、鉄鋼価格を押し下げている。
米国政府は自国産業保護のため、通商政策で安価な中国材を締め出す方針を採る。米国は価格が守られ、かつ人口増やインフラ整備などで長期的な鉄鋼需要の拡大が期待できる、数少ない有望市場だ。
その米国市場に勝負を懸けたのが、国内最大手の日本製鉄だ。2023年12月に米大手のUSスチール(USS)を約2兆円で買収すると発表。同じく成長市場と位置づけるインドと東南アジアでも現地企業を買収しており、「グローバル粗鋼生産能力1億トン」を目標に掲げる。国内では需要減に応じて製造能力を縮小する一方、成長の軸を海外へ移している。
発表直後から逆風
しかし、大型買収は発表直後から逆風を受けた。
24年1月にトランプが演説の場で「絶対に阻止する」と発言。同3月には、当時民主党の大統領候補だったバイデンも「USSは米国内で所有され、運営されるべき」と表明した。
政治の動きとは別に、4月に開かれたUSSの臨時株主総会では買収が承認され、直後にはUSSと日鉄が共同で買収のメリットを訴える声明を出した。しかし5月に日鉄は、関係当局の審査が長期化していることを理由に、買収完了予定時期を当初の24年9月末までから同12月末までに延期した。
なぜ、日鉄のUSS買収は米国でここまで反発を受けるのか。カギを握るのが「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」の労働者だ。彼らは、製造業に従事し米国の発展を支えたという自負を持つ。しかし、金融やITを中心とした近年の経済成長から取り残され疎外感を強めている。外国企業や移民に機会を奪われたという意識も強い。
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