日鉄のUSスチール買収を揺さぶる米国政治の力学 激戦州めぐり両党候補が「買収阻止」でアピール

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日鉄による買収に賛成するUSスチール従業員の集会。自社ホームページに動画を掲載するなど会社側も後押し(写真:USスチールのメディアサイトの動画から東洋経済がキャプチャー)

グローバルな飛躍を狙った2兆円買収が、アメリカ大統領選挙をめぐる政治の力学に翻弄されている。

9月4日、ジョー・バイデン大統領が日本製鉄によるUSスチール(USS)買収の阻止に乗り出すと複数のアメリカメディアが報じた。

同買収については独占禁止法上の問題を司法省が、安全保障上の懸念を対米外国投資委員会(CFIUS)が審査中。日鉄の既存のアメリカでのビジネスは大きくないうえ、同盟国企業による買収だ。本来ならどちらも問題とはなりにくい。だが、CFIUSの判断を盾にアメリカ政府が許可しないという見方が強まっている。

背景には、雇用が失われる、待遇が保証されないとして買収に反対する全米鉄鋼労働組合(USW)と呼応する政治家の存在がある。

ラストベルトのスイングステート

共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ氏は、昨年12月に本買収が発表されると即座に反対を表明。さまざまな演説の場で「自分なら絶対に阻止する」と繰り返してきた。

アメリカ中西部から東北部にかけての「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」の製造業労働者の支持を得て2016年に大統領になったトランプ氏にとって、ラストベルトの一角、ペンシルベニア州ピッツバーグに本社を置くUSSの買収阻止は、再選へ向けてのまたとないアピールとなっている。

バイデン大統領も3月、「USSはアメリカ国内で所有・運営されるアメリカの鉄鋼会社であり続けるべき」と声明を発表。その後も態度を変えていない。民主党の大統領候補カマラ・ハリス副大統領もUSSが「アメリカで所有・運営されるべき」と同様の考えを示す。

両党の候補者から反対を受けるのには事情がある。ペンシルベニア州は、大統領選挙のたびに勝利政党が変わる「スイングステート」。割り当てられる選挙人の数が19人と多く、大統領選挙の最重要州の1つであることが大きい。

「民主党が買収に反対するのは、トランプ氏が反対しているからだ」と、米国政治に詳しい笹川平和財団の渡部恒雄上席フェローは解説する。「労働組合と民主党は伝統的に関係が深く、票田として非常に重要。トランプ氏が労組の意見に沿った方針を掲げている以上、民主党としても同様の政策を採らざるをえない」(渡部氏)。

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