スズキを巨大企業にした鈴木修氏「娘婿の意地」 「中小企業のおやじ」が見せた経営への執念

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鈴木氏にはそういうところがまったく見られない。なぜなら、鈴木氏世代の場合、金持ちでも周りを見れば貧しい人が当たり前のようにいたから、自分は恵まれていると思い利他の精神が生まれる人が少なくなかった。

ところが、今の富裕層家庭では、小さい時から親子ともども同じアッパークラスとしか付き合わない環境に置かれている。このような同質の環境内に籠ることで、人を見下す人が出てくることもある。これでは、「従業員のための経営」などできない。ファミリービジネスの創業家出身者ほど気をつけなくてはならない。

「長男の意地」は発揮されるか

帝王学の継承については実行していない創業家が多いのではないか。理想としては、専門家の知恵も借りて徹底した英才教育を行えば、異次元の才能を持った経営者が出現する可能性もある。その人は、必ずしも代々の事業を継承しなくとも、イノベーションを起こすかもしれない。

鈴木俊宏氏が成功を収めたとき、次の言葉を口にするかもしれない。「長男がこの会社をだめにした、と後ろ指をさされたくない一心で、これまで頑張ってきた」と。

2021年2月24日の退任記者会見の最後に、愛嬌のある微笑みを浮かべながら言った一言に生涯現役を実践した鈴木修氏の人生が集約されている。

「生きがいは仕事です。挑戦し続けることは人生ということでもありますから、皆さんも仕事をし続けてください。バイバイ」

白い長い眉毛の鈴木修氏はサンタクロースに似ている。奇しくもクリスマスに亡くなられた。前出の豊田氏は、「皆さん、というのは、我々もそうですし、550万人の自動車業界に関わる仲間たちへのメッセージでもあると思います」と感想を述べているが、一番真剣に耳を傾けていたのは鈴木俊宏氏ではないだろうか。

一見、鈴木俊宏氏は、修氏とはキャラが大きく異なるように見られているが、同氏の生き様を最も近い距離で見てきた人物である。「長男の意地」に期待したい。

長田 貴仁 経営学者、経営評論家

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おさだ たかひと / Takahito Osada

経営学者(神戸大学博士)、ジャーナリスト、経営評論家、岡山商科大学大学客員教授。同志社大学卒業後、プレジデント社入社。早稲田大学大学院を経て神戸大学で博士(経営学)を取得。ニューヨーク駐在記者、ビジネス誌『プレジデント』副編集長・主任編集委員、神戸大学大学院経営学研究科准教授、岡山商科大学教授(経営学部長)、流通科学大学特任教授、事業構想大学院大学客員教授などを経て現職。日本大学大学院、明治学院大学大学院、多摩大学大学院などのMBAでも社会人を教えた。神戸大学MBA「加護野忠男論文賞」審査委員。

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