誰がための「103万円の壁」引き上げか、混迷の税制 国民民主の「178万円」実現なら高所得層に大減税

✎ 1〜 ✎ 222 ✎ 223 ✎ 224 ✎ 225
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

今般の与党大綱に盛り込まれた控除の見直しに伴う税収減については、次のように記されている。

上記の所得税及び個人住民税の見直しについては、デフレからの脱却局面に鑑み、基礎控除や給与所得控除の最低保障額が定額であることに対して物価調整を行うものであることを踏まえて、特段の財源確保措置を要しないものと整理する。
仮に今後、これを超える恒久的な見直しが行われる場合の財政影響分については、歳入・歳出両面の取組みにより、必要な安定財源を追加的に確保するための措置を講ずるものとする。

基礎控除と給与所得控除の最低保障額をあわせて20万円引き上げることは、代替財源なしに行うこととする、というわけである。「令和7年度税制改正大綱」に盛り込まれた所得税制の控除の拡大等により、7000億円程度の税収減となると見込まれるが、その補填は何もしない、つまりそのまま国債を増発することになる。

それでいて、引用した第2文は、今後の議論に対する牽制ともいうべき文言が添えられている。

「103万円の壁」をなくして、基礎控除と給与所得控除の最低保障額の合計額を123万円にするまでは、財源措置なしに実施するものの、それを超える見直しは、財源措置なしには実施しない、と宣した形だ。恒久的な税制改正を行うならば、必要な安定財源を追加的に確保する、とくぎを刺している。

今般の与党大綱で、「103万円の壁」を壊すことになった。そして、今後最終的な決着は3党合意の行方にかかっている。「103万円の壁」が壊れても、残された壁がある。それは「時間の壁」である。

3党合意の「時間の壁」は予算案提出

2025年度予算政府案を取りまとめるためには、その前に2025年度の税制が確定していなければ、税収見込みも立てられず、予算が組めない。一部の報道には、税制協議は、政府が予算案を衆議院で可決させたい2月末までにまとまれば何とかなるという話が出ているが、それはまずありえない。

なぜならば、一度国会に提出した予算政府案は、曲がりなりにも確定させた税制改正と完全にリンクしており、その確定させたはずの税制改正をそれなりの規模で書き換えるということになれば、税収見積もりもやり直さなければならず、政府は予算案を出し直さざるを得なくなる。これでは、内閣の沽券にかかわる。

やはり、一度国会に予算案を提出した以上、ごく小さな修正を除いて、規模の大きい予算の修正につながる税制改正の書き換えは、無理というべきである。そうなると、税制協議は、政府が予算案を閣議決定する前に終えなければならない。

通常国会は1月に開会し、政府は予算案を提出する。税制協議は、それまでにしか残された時間はない。

今後の税制協議は、時間の壁を意識しながらの展開となろう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事