地方税である個人住民税についてはどうか。
都道府県や市町村の首長が、基礎控除を拡大すると税収が大きく減ると主張して、議論を巻き起こしたが、結局「令和7年度税制改正大綱」では、個人住民税の基礎控除は一切変更しないこととした。これに伴う地方税の減収は生じない。
以上を総合すると、今般の所得税制改正の効果は、次のようなものとなろう。
まず、基本的な現状として、所得税は累進課税されているが、個人住民税は税率10%の定率課税となっている。これにより、低所得者層は、所得税をあまり負担しないものの、個人住民税はそれなりに負担している。高所得者層は、個人住民税も多く払っているが、所得税をもっと多く払っている。
これを踏まえると、低所得者層が所得税より多く払っている住民税では、基礎控除の拡大は見送られており、そこでの減税効果は生じない。
減税効果があるのは、少し払っている所得税で控除拡大による減税が主である。所得税を年に1万~2万円払っている人は、その負担の5%程度、つまり500~1000円しか減税の恩恵がない。
178万円まで&住民税だと最上位10%に2兆円減税
他方、高所得者層は、累進課税でより多く払っている所得税で、控除が拡大したことに伴って、より多く減税の恩恵が受けられる。高所得者層では、所得税を年に20万~30万円払っている人だと、5万円前後の減税となる。
要するに、国民民主党は「手取りの増加」をうたって「103万円の壁」の引き上げを求めたものの、恩恵を受けるのは主だっては中高所得者層であって、低所得者層ではないということだ。そもそも、低所得者層は所得税がさほど課されていないのだから、減税されてもその額はたかが知れている。
今後、さらに3党で来年度の所得税制改正について協議することになるが、国民民主党が控除額を178万円にまで引き上げることにこだわると、どうなるか。しかも、与党大綱では盛り込まれなかった個人住民税の基礎控除までも引き上げることにしたらどうなるか。
筆者が推計したところ、所得税と個人住民税の減収総額は8兆円程度にのぼる上、最上位10%の高所得者層にその4分の1に相当する2兆円もの減税の恩恵が及ぶことになる。
控除額の引き上げを大きくすればするほど、恩恵がより大きく及ぶのは高所得者層であって、低所得者層ではない。低所得者層は、増やした控除額を使い残して減税の恩恵が受けられなくなるだけである。
これでは、何を求めて「103万円の壁」を引き上げているのか、わからなくなる。それでも、178万円を目指すのだろうか。
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