外交交渉路線に転換したウクライナの胸の内 2024年夏から始まっていた停戦に向けた模索

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「全領土武力奪還」の旗をそのままにして、2024年夏の時点でウクライナ軍には別の「暗黙の戦略」があったのだ。

その「暗黙の戦略」について語る前に、まず前提となる戦況を説明しよう。現在、ロシア軍と戦闘が続く戦線は大きく分けて2つある。東部ドネツク州と南部クリミア半島だ。

このうち、ドネツク州では年内での完全制圧を厳命したプーチン氏の命令を受け、ロシア軍が主導権を握って猛攻を続けている。ウクライナは苦しい防衛作戦を余儀なくされている。

ウクライナ軍にあった暗黙の了解

一方でクリミア半島では、セバストポリに司令部を置いていた黒海艦隊が事実上、ウクライナ軍によるミサイル、ドローン攻撃で艦隊機能を喪失するなど、ロシア軍が防御一辺倒となっている。

こうした情勢を受け「暗黙の戦略」は以下のようになっていた。クリミア半島の奪還を急ぐ一方で、都市数も多く、制圧には大きな困難や犠牲を伴う東部ドンバス地方(ドネツク、ルハンスク両州)の武力奪還は実質的に断念して、クリミア半島制圧後に外交交渉でロシア軍に撤退を迫る――というものだった。

つまり、対外的に明言をしてはいなかったものの、事実上「全占領地武力奪還」を断念していたのだ。

この「暗黙の戦略」に沿って、実はウクライナ軍はクリミア半島に対し、大掛かりな攻撃を計画していた。

この攻撃計画については、2024年7月30日公開の〈「クリミア上陸作戦」で停戦交渉狙うウクライナ〉で、筆者が「8月以降、ウクライナが仕掛ける勝負」として、クリミア半島がターゲットであり、ウクライナ軍のシルスキー総司令官が2024年7月末、イギリス紙との会見でクリミア奪還に向けた「現実的な計画がある」とまで言い切った、と記述していた。

つまり、クリミア制圧で戦争の主導権を回復したうえで、ウクライナがロシアに停戦交渉を呼び掛けるというのが「暗黙の戦略」だったのだ。

ゼレンスキー大統領がこの時期、ウクライナの和平案を協議する世界平和サミットの第2回会合を2024年11月にロシアも招待して開催すると発表した背景には、このサミットで停戦交渉を呼び掛けるという思惑があった。

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