「やたら歴史で物事を語りがち」現代中国人の心理 『中国ぎらいのための中国史』安田峰俊氏に聞く
――なぜそこまで歴史が身近なのでしょうか。
ナショナリズムと結びついている面がある。中国の歴史はやはり長い。大昔に文明があり現在も栄えている場所はそう多くないので、自分たちの歴史に一種の自信を持っている。
また、歴史が中国のソフトパワーになっているところもある。中国発のゲームやSF作品は多数出てきたが、アメリカのハリウッドほど多くの人が受け入れるソフトパワーが、国力のわりにまだない。そこで歴史を強調しこだわりを見せている。
中国発の人気ソーシャルゲームに「原神」がある。キャラクター名は日本に寄せているが、ゲーム中のせりふやメッセージには、日本語の文法は正確なのに日本から見て不自然なこともある。それは漢詩を引用したり、歴史的由来のある言葉を使っているからだ。ゲームにさえ古典や歴史的教養が自然と使われている。
かつての「朝貢関係」の擬似的な復活
――歴史をソフトパワーとして使う中、歴史意識が中国政治や外交に影響を及ぼしている例もありそうです。
実際、中国共産党の総書記を皇帝に、首相を丞相になぞらえることはよくみられる。党の学校では名目上の校長が党総書記だが、その学校の生徒は「天子門生」と皇帝の弟子とよばれる。
それは言葉遊びにすぎないが、外交姿勢や国際関係の見方がその言葉や意識に規定されているところもある。アジア諸国を招いた国際イベントを報じる際には報道で「万邦来朝」という言葉が出てきた。天下のさまざまな国が朝廷にやってきたことを指す言葉だが、かつての朝貢関係を擬似的に復活させた中華帝国的なニュアンスがみえる。
中国は近年まで対等な国家関係を経験することがなかった。前近代は周辺国が皇帝の徳を慕ってやってきて名目上の臣下の儀礼をとり、皇帝は贈り物を持たせて帰らせるという朝貢関係だったが、1840年からのアヘン戦争で敗北して以降、欧米列強より下に扱われることを経験した。
明治維新後にアジアの一等国として他国と対等な関係を築こうとしてそうなった日本とは異なる経験をしてきたのだ。
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