「若者の街」じゃなくなった渋谷への寂しさの正体 お金のない若者でも楽しめた街は、今はもうない

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ニセコが「選択と集中」で成功したように、渋谷でもまた「選択と集中」による成功が起こっている。「選択と集中」する街になるどころか、もともと渋谷は「選択と集中」をしてきたからこそ、今のポジションがあるわけだ。

ニセコの風景
たくさんのインバウンド客が来ることですっかり有名になった街・ニセコ。写真のような、外国人向けのホテルがたくさんある(筆者撮影)

ここでも、外国人観光客向けにさまざまな商品が高額になっていることが連日報道されている。例えば、普通のカツ丼が3000円など、一般の日本人からすれば目が飛び出るような価格の商品がゴロゴロ転がっている。

陳列された高いシャンパン
ニセコ・ひらふのセイコーマート。高いシャンパンがゴロゴロ(筆者撮影)

このエリアを歩けば、看板は英語ばかりだし、コンドミニアムも外国人向けに作られていて街並みはどこかの外国のよう。まるでディズニーランドのようなテーマパークが広がっている。

ニセコの看板
ニセコでは、英語の看板が至る所に確認できる(筆者撮影)

行きすぎた「選択と集中」の果てには何が待っているのか

このように私自身は、「ニセコ化」や、現在の渋谷について完全に否定的な見解を持っているわけではない。

ただ、やはり「ニセコ化」が進みすぎた社会については、警戒して捉えるべき側面もあるだろう、というのが正直な感想でもある。

「若者」から「ビジネスパーソン・インバウンド」へのシフトチェンジが進む渋谷だが、「ラーメン1000円の壁」で日本人がザワつく昨今である。

ニセコ化するニッポン
『ニセコ化するニッポン』(KADOKAWA)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。楽天はこちら

そもそも、ビジネスパーソンだって富裕層ではないから、こうした渋谷の高級化の選択からだんだんとこぼれ落ちていくかもしれない。

ビジネス的に利回りがいいのは、圧倒的にインバウンドを「選択」し続けることだ。彼らは2000円のラーメンでも食べられる(もしかしたら5000円でも)。

となればこの「選択と集中」はさらに先鋭化していく。そうなった先に、渋谷は、東京は、日本はどうなっていくのだろうか。

もしも「ニセコ化」を適切に批判するのであれば、それがもたらす「プラスの側面」も踏まえたうえで、それでもそのマイナス面を考えていく必要がある。渋谷という街の変遷は、実はこの「ニセコ化」を考えるうえで、この上なく面白いサンプルなのだ。

そして、「渋谷は変わってしまった」という嘆きには、そんな都市の変容が刻まれている。

連載の前回の記事はこちら:「インバウン丼」食べない人にも批判された深い訳 テーマパーク化するニッポンに、どう向き合うか

谷頭 和希 都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。「東洋経済オンラインアワード2024」でMVPを受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ニセコ化するニッポン』(KADOKAWA)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

X:@impro_gashira

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事