彼/彼女の皮膚感覚が熱かった時代を作った--『60年代のリアル』を書いた佐藤信氏(東京大学大学院法学政治学研究科修士課程在籍)に聞く
──この本の前半は、毎日新聞に36回にわたり連載したものがベースになっています。
新聞という媒体に書くには、不特定の読者への商業的な価値を満たさなければいけない。そういう文章を書くにはどうしたらいいのか。そもそも毎回1500字程度の字数で何を伝えていくか。いろいろな方々と話をしながら文章を書けたのが自分にとって大きなステップになった。
もともとの僕の関心は国際政治にある。現在の恩師は北岡伸一先生。ただ、当初の御厨ゼミの趣旨は、いわゆる政治、政治学といった枠の文献にとらわれずに、広い分野に当たり、そこに現れてくる政治をとらえようとするもの。さらに原稿執筆という経験もさせてもらい、既存の見方と離れた政治のとらえ方を磨く契機になった。
──では、60年代の政治をつかみ取るキーワードは。
最初から注目したのがリアルという概念。題名にもなっているが、60年代の人たちが考えていたことが僕にとって新鮮で、持っている問題意識や感覚が、実は僕らとさほど遠くないのではないかとの思いがある。
僕の先生の世代は多くが全共闘世代のちょっと下。その世代は、全共闘世代に反発した世代で、新左翼運動の起こりを「論外」として切り捨てる部分があった。
それは政治学の発展としてはふさわしい部分もあるが、同時にそうでない部分もあって、革命を言い出すまでもなく、社会運動は政治学の中心的な命題だったはず。それがだんだん薄れていく。単純に政策につながらないと、政治における意味を持たせない。政治学で失われている視点が、そこに凝縮されている。そうしたものをもう一度見えるようにするというのが、この本のグラウンドメッセージだ。