「京都吉兆」がイタリアの学食でランチ提供の反応 世界の有名シェフ150人以上が料理した大学
たとえば料理に使われる野菜類は、大学構内にある畑で学生たち自ら栽培し、農業におけるさまざまな問題点や生産サイクルを実体験する。食料廃棄をできるだけ減らすための工夫、動物性タンパク質の摂取を減らし代替プロテインを使った料理やメニューをどのように取り入れるのかなど、食をめぐる社会問題に実際に取り組み、学ぶ現場なのだ。
スローフードとは「おいしく、きれいで、正しく」
「京都吉兆」が、その食科学大学でランチを作るという話を聞いたのは、今年の春のことだった。日本食ブームが過熱し日本料理店が乱立、日本酒の輸入量も激増しているイタリアだが、実際に食べられるものは本物の日本料理とはかけ離れたものがほとんど。そんなイタリアで吉兆が料理を作り、食の若きエリートたちに食べてもらう。本物の日本文化を体感してもらい、未来へつなげる。そんな企画だった。
今年で創立20年を迎える「食科学大学」の設立を主導したのは、ピエモンテ州ブラに本拠地を置くスローフード協会の創立者カルロ・ペトリーニ氏だ。食科学大学の学長でもあるペトリーニ氏とは、食の安全や食文化に興味を持つ人であれば、イタリア人に限らず神様のように憧れる存在だ。
ローマ法皇からヴァチカンに招聘され、環境問題対策についてアドバイスを求められた唯一の一般人でもあるというすごい人なのだが、日本ではペトリーニ氏はもちろん、そもそもスローフード協会についてあまりよく知られていない。「伝統グルメ料理をゆっくり食べる=スロー」と思われがちだが、本当のスローフードの意味は「おいしく、きれいで、正しく」。
「おいしい」は言わずもがなだが、各個人が持つ文化的背景によっておいしさはさまざまであるという事実を受け入れ、尊重すること、そして単に味だけでなく、身体にとってもおいしいものかどうかを考え、追求するということ。「きれい」とは季節外れの野菜や果物を、遠い外国から運ぶなどして環境を汚さないものであること。そして「正しく」とは搾取や強制労働などのない正しい生産方法であること、という意味だ。
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