アジアに舵を切ったオバマ政権の狙い--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授
アジアが世界情勢の中心に返り咲く──これが21世紀最大のパワーシフトだ。1750年にアジアは世界人口で5分の3を占め、世界の生産でも5分の3を占めていた。欧米での産業革命後、世界の生産に占めるアジアの割合は1900年には5分の1に低下したが、2050年までに300年前のレベルに戻るだろう。
しかし、米国はイラクとアフガニスタンにおける戦争で苦境に陥り、今世紀の最初の10年を浪費してしまった。ヒラリー・クリントン国務長官が最近の演説で述べたように、これからの米国外交政策は東アジアに向けて舵が切られる。
その兆候として、オバマ大統領はオーストラリア北部の基地に2500人の米海兵隊を交代で駐留させると決定した。さらに11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の会合で、TPP(環太平洋経済連携協定)を推し進めた。こうした二つの出来事により、「米国が同地域に関与する大国であることに変わりはない」というオバマ大統領のメッセージが強められた。
米国がアジアに向けて舵を切ったからといって、世界の他地域が重要ではないということではない。
欧州の経済は中国よりもずっと大きく豊かである。ただ、ドニロン米大統領補佐官(国家安全保障担当)が説明したように、過去2~3年の米外交政策は、イラクとアフガニスタンにおける戦争、テロに対する懸念、イランと北朝鮮における核拡散の脅威、さらにはアラブ世界の民衆蜂起に翻弄されてきた。オバマ大統領のアジア訪問は、米外交政策をこの地域の長期的な重要さに見合ったものにする取り組みといえる。