アジアに舵を切ったオバマ政権の狙い--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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ドニロン補佐官の言葉を使えば、「このダイナミックな地域を戦略的な最優先事項の一つに格上げすることで、オバマ大統領は、数々の危機が起こっても国家という船をコースから逸脱させないという決意を示している」のである。

中国だけが中国を封じ込めることができる

オバマ大統領のアジア訪問は中国に対するメッセージでもあった。

08年の金融危機以降、多くの中国人が、「米国は衰退に向かっており、中国は米国の同盟国や友好国に犠牲を強いてでも、特に南シナ海の領有権を手に入れるためには自己主張を強めるべきだ」という誤った見方を表明した。オバマ政権は発足1年目に対中協力の優先度を高くしていたが、中国の首脳陣は米国の政策を弱さの徴候と取り違えたようだ。

オバマ政権がより強硬な路線を取ったのは、クリントン国務長官が10年7月にハノイで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)の会合で南シナ海の問題を取り上げたときのことだ。その後、11年1月の胡錦濤・中国国家主席の公式訪米は成功したが、中国の論説委員の多くは、米国が中国を封じ込め、その平和的な興隆を妨げようとしているという不満を表明した。

クリントン国務長官が、今年マニラで開催される東アジア首脳会議の議題に、中国が近隣諸国と争っている海事問題を入れるよう強く主張しているため、中国が米国による封じ込めだとして再び懸念を強めている。この会議にはオバマ大統領や胡錦濤国家主席および地域内の各国首脳が出席する。

だが、米国の対中政策は冷戦当時のソ連圏に対する封じ込めとは違う。米国とソ連の交流が限定的であったのに対して、米国は中国の最大の海外市場であり、中国のWTO(世界貿易機関)加盟を歓迎かつ促進し、毎年12万5000人の中国人学生に大学の門戸を開放している。もし現在の対中政策は冷戦方式の封じ込めだと考えるならば、それは尋常でなく温かいといえよう。

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