「移民・難民をアフリカへ」知られざる欧州の転換 受け入れの理念から強硬策へ舵を切る国々

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多くのEU加盟国が、圏内の自由移動というEUの理念には反することは承知の上で、国境検問を強化している。

ドイツのショルツ政権は2024年9月16日から、ドイツと接するすべての国との国境で、イスラムテロや難民による暴力犯罪が国民の安心を脅かしていることを理由に、検問を開始した。

圏内の国境検問の撤廃を定めたシェンゲン協定には、例外的な状況での最後の手段、暫定措置として検問を実施することを認めている。これまでも大規模なテロ事件やコロナ感染拡大などの事態に対応して、国境検問が行われてきたが、近年目立って増加している。

2006年以来、加盟国からのEUに対する検問設置の告知は441件あり、15年以前は35件で、近年に集中していることがわかる。24年9月現在、8か国が検問を実施している。

ドイツの措置に対しては、ポーランドやオーストリアから事前に通告がなかったなどと反発の声が上がった。不法移民がドイツ国境で押し返されてくることへの懸念もあると見られる。ただ、他の加盟国からはEU理念に反するとの強い批判はないようだ。すでに検問が常態化している現実があるからだろう。

もはやEUに理念や建前の余裕は乏しい

2024年10月17日に開かれたEU首脳会議の議論では、ウクライナ支援、中東情勢に並び不法移民問題が議題となった。会議後に発表された「結論」では、「あらゆる手段を用いてEU圏境の効果的な管理を確実なものとする」として、国境管理の強化を容認した。

また、ロシア、ベラルーシからのハイブリッド戦争の手段としての不法移民流入に悩むポーランドに対しては「ロシアとベラルーシはわれわれの庇護権を含む価値を悪用したり、民主主義を損なったりすることは許されない。欧州委員会はポーランドへの連帯を表明する」と庇護権の棚上げに理解を示した。

「結論」は「不法移民を防ぎ対処するための、EU法並びに国際法に沿った新しい方法が検討されねばならない」と打ち出し、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長もメディアに対し「EU圏外に送還の拠点(return hub)を設置するという考えについて討議した」と述べた。

今後、圏外の施設設置に弾みがつくことも考えられる。

EUは圏境に難民審査を行う収容施設を作るなど、加盟国が連帯して対処する方針を掲げているが、危機の深化を前に、理想や建前を押し立てる余地は少なくなっている。当面、各国が進める強硬策を容認せざるをえないだろう。

三好 範英 ジャーナリスト

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みよし・のりひで / Norihide Miyoshi

みよし・のりひで●1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。1982年読売新聞社入社。バンコク、プノンペン、ベルリン特派員。2022年退社。著書に『ドイツリスク』(2015年山本七平賞特別賞受賞)『メルケルと右傾化するドイツ』『本音化するヨーロッパ』『ウクライナ・ショック 覚醒したヨーロッパの行方』など。

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