トヨタとNTT、5000億円規模「AI安全基盤」の中身 事故を未然に防ぐ業界共通のプラットフォーム

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第3の基盤は、モビリティAI基盤だ。島田社長はこれを「ラージモビリティデータモデル(LMM)」と呼ぶ。市場から収集した実際の走行データをAIが継続的に学習し、さまざまな運転シーンを生成する。これまでのAIは大量のデータが必要だったが、より少ないデータでも効率的に学習できる仕組みを構築。シミュレーションの精度を高めることで、自動運転支援やAIエージェントサービスの迅速な改良を可能にする。

協調と競争の新たな形

この構想の特徴的な点は、基盤を「協調領域」として位置付けていることだ。トヨタの佐藤社長は、通信・データ処理基盤を他の自動車メーカーにも開放する考えを示した。従来、各社が個別に開発していた基盤システムが共通化され、車両単体での開発コストは削減される。一方で、基盤上でのサービス開発は各社の「競争領域」となる。

この発想は、現代のデジタルプラットフォーム戦略と軌を一にする。基盤は共有し、そのうえでのサービス競争を促すことで、業界全体の発展を目指す。データ活用力やサービス開発力が、新たな競争軸として浮上してくる。

すでに通信業界からの反応も出始めている。KDDIの高橋誠社長は11月1日の決算会見で、この構想への参画に意欲を示した。同社はトヨタ製の車両など1000万台以上にネットワークを提供している。5G網や通信衛星を組み合わせた「途切れないネットワーク」の構築で貢献できるとの考えを示している。

本構想の実現に向けては、いくつかの重要な課題が浮かび上がる。最も大きいのは技術面での処理需要の規模感だ。前述のとおり、トヨタの試算では、2030年には現在と比べて通信量は22倍、計算量は150倍に膨れ上がる。これまでにない規模のデータをリアルタイムで処理し、AIによる予測や判断に活用できる基盤を、いかに構築していくのか。

実用化に向けての道のりも険しい。当面は日本国内でのモデルケース作りに注力するものの、グローバル展開に際しては各国で異なる規制状況や交通環境、通信環境への対応という大きな壁が立ちはだかる。

経済面での懸念もある。5000億円という巨額投資の回収について、NTTの島田社長は「コストは薄く広くご負担いただく」という考えを示し、長期的な視点での段階的な回収を強調する。極端な値上げではなく、徐々に吸収していく形で、持続的な投資サイクルを作り出すことを目指す。

石井 徹 モバイル・ITライター

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いしい とおる / Toru Ishii

1990年生まれ。神奈川県出身。専修大学法学部卒業。携帯電話専門媒体で記者としてのキャリアをスタート。フリーランス転身後、スマートフォン、AI、自動運転など最新テクノロジーの動向を幅広く取材している。Xアカウント:@ishiit_aroka

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