農家は、なぜ遺伝子組み換え種子を使うのか 一度使うと戻れない、その圧倒的な恩恵

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また、GM種子を植える際には、非GM種子を一定割合で同時に栽培するよう指示されており、通常は全体の10%程度を非GM種子にする。だが、シリング氏が使う種子では5%まで下げることが可能で、生産性の高いGMを多く栽培できるメリットもある。「GMのほうが根や茎が強く育ち、乾燥にも強い。だから収量が上がる」。

また「農薬などのコストは以前、1エーカー当たり40~45ドル(約4800~5400円)かかっていた。今では8ドル(約960円)ほどだ」とも付け加える。農家にとって、作物に行き渡る栄養分を妨げてしまう雑草は悩みのタネ。「時期を見て何回かに分けて除草剤を散布してきた。それでも雑草は生えてくる。農薬を何回も使うわけにはいかないので、最後は家族総出でかまを持ち、むしり取る。私が子どもの時には何回もやらされたよ」とシリング氏は苦笑する。

出回るのはGMが多い

GM種子を積極的に使ってきたシリング氏のような農家がいる一方で、必要に応じて使ってきたという人もいる。ミズーリ州に550エーカーの農場を持つブレント・ヘアー氏(56)は、「私はGM種子を最後に受け入れたほうだ」と打ち明ける。

農場の75%をトウモロコシ、残りは大豆を栽培するヘアー氏は、「これまで非GM種子を使っても、きちんと育っていた」と言う。ところが、「(非GMである)従来の種子で品種改良されるものが減って、最近ではまったく出てこなくなった。そのぶん、GM種子として品種改良されるものが相次いで出てきた。結果としてそっちに動いてしまった」と説明する。選択肢は狭まり、今では100%、GM種子を植え付けているというが、結果として「水や肥料、化学薬品の量などが減り、かつ労力・金銭的負担も減った」。

ヘアー氏は、モンサントや米デュポンといった大手企業の種子ではなく、独立系の種子開発会社のものを使っていると言う。理由は「経営者が非常にイノベーティブだから」。今ではとある会社のディーラーをもやっているほどだ。

「市場のニーズを見極めて種子を選ぶ」とヘアー氏

だがどういった種子を植えるかは、市場の動向を見極めながら決めると、ヘアー氏は強調する。「非GMのほうがニーズがあり、収量も上がって収入が増えるのであれば非GMを植える。一方で、飼料用などGMでもかまわないというニーズがあり、価格動向もよければGM種子を植える。どちらを使えば収入が上がるかという現実的な判断だ」。

天候一つで大きく収入が左右される農業生産者たち。いまだ消費者だけでなく、研究者の間でもGM技術に対する是非が渦巻くなか、目の前の効果や需要を一つずつ見極めながら、合理的にそれぞれの生業を営んでいる。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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