拓哉さんの頭の片隅にあったのは、大学生の頃の旅の記憶。バックパッカーとして訪れた南米に、魅了された。それ以来、ふたたび海外を旅したいという思いを胸に秘めていた。できるなら、今度はパートナーと一緒に。
妻の中村詩歩さん(当時28歳)は、IT企業でマーケティングやウェブディレクションの仕事をしていた。友達や家族から「子どもはどうするの?」と聞かれることもあり、「自分も、子どもを生んで、家を買って……というルートを歩むのかな」と思っていた。
けれど、現状に満足しているかといえば、そうではなかった。
「心から仕事を楽しめているわけではなかったんです。『仕事に必要なのは、我慢力だ!』という気持ちで働いていました。だから、『一度なにかを変えてみたい』という気持ちは、心のどこかにありましたね」(詩歩さん)
「いつか行けたら」なんて言っていられない
転機のきっかけとなったのは、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻だ。
「『どこにでも旅行できる時代を生きていると思ってたのに、行けないところが出てくるのか!』と、ショックを受けました。もう、『いつか行けたら』なんて言っていられない。『仕事を辞めて、海外に行かない?』って、妻に話したんです」(拓哉さん)
拓哉さんが「いつかまた海外に行きたい」と話しているのも何度も聞いていた詩歩さんにとって、突拍子もない提案ではなかった。お互いに貯めていた貯金もある。幸い、2人とも「もし帰ってきて、働きたかったら戻ってくればいい」と言ってくれる職場に恵まれたこともあり、旅に出ることを決意した。
2人の旅の目的は、その国の暮らしを知ること。観光もするが、それよりも、行く先々の土地の人が何を食べ、どんなことを話し、どんなふうに働き、暮らしているのかを知りたい。だからこそ、短期間であちこち移動するのではなく、「現地にどっぷりつかってみる」スタイルで旅をすることにした。
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