意外!ソニーのテレビが欧米で復活していた どん底から這い上がるために何をしたのか

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4Kの65インチOLEDテレビをIFAで発表したことで注目されたパナソニックは、同時にOLEDテレビの販売が欧州でしか予定されていないことも明らかにした。このパナソニック製OLEDテレビ「TX-65CZ950」は、LGディスプレイ製OLEDパネルを採用。HDR表示にも対応する。また、画質面でも低輝度階調が不得手なLG製OLEDテレビとは異なり、滑らかな暗部階調を実現している。

なお、日本市場には毎年秋に高付加価値モデルが追加されるが、今年は春に発売したCX800シリーズの上位に位置する液晶テレビの発売も予定されていない。

会場にはベゼルデザインがわからないよう隠された液晶テレビを用い、各所でHDR映像のデモを行っていた。この液晶テレビはCX800ではなく未発売のもので、見たところCX800よりもバックライトの部分駆動分割数が多く、より効果的にHDRを見せていた。

パナソニックはUHDブルーレイに力を入れている

製品化についての言及はなかったが、登場するとすれば来年となりそうだ。なお、視野角による色味やトーンカーブの変化、コントラストの高さなどからみて、パナソニックが得意とするIPS液晶ではなく、VA液晶が採用されていると見受けられる。

OLEDテレビの国内投入がない点は残念だが、UHDブルーレイを再生可能な製品は日本が先行するようだ。というのも、前述したようにサムスンのUHDブルーレイプレーヤーが発売延期になった影響で、ハリウッドメジャー各社のUHDブルーレイ(録画規格ではなく4Kソフト販売用のROMだけが定義されている)対応ソフト発売が遅れる見込みになったためだ。

しかしプレーヤーが主流の海外市場とは異なり、日本国内ならば高級ビデオレコーダーとして製品を成立させることができる。UHDブルーレイソフトを数本バンドルして対応レコーダーが10月ぐらいに登場しそうだ。来春までは、この製品がグローバルにおいて唯一のUHDブルーレイソフト再生機となる。

従来型の映像ビジネスにとらわれすぎ?

このような動きだけを見ると、パナソニックは最新テレビ技術+最新映像用光ディスク技術という、従来型映像ビジネスにとらわれすぎのように見える。

しかし、パナソニックは積極的に「UHD Alliance」に参加することで、HDRに対応した4K映像技術に幅広くコミットするという。

UHD Allianceは、UHDブルーレイ策定の主要メンバーに、ネットを使った映像配信事業者2社(NetflixとDirecTV)を加えた組織で、主要電機メーカー、ハリウッド映画大手、ネット配信大手が、4K+HDRの映像について基準となる”枠”を定めようとしている。この組織に積極関与することで高い商品力を引き出そうとしているようだ。

ソニーにとって欧米のテレビ事業を立て直せたことはプラス要因だ。しかし、一方でマーケティングとセールスで販売力を最大化した結果であり、現時点では「ソニー製テレビのブランド力と商品力が復活した」と判断するのは早計だろう。マーケティング強化が、各地域のニーズを細かく拾い上げ、売り上げ増に貢献しているとソニーは主張しているが、一方でソニーの急伸をみてライバルが黙っているはずもない。

とはいえ、彼らの採った手法やシェアが伸びた原因などを掘り下げて伺ってみると、最終的に「画質が良いから」と選ばれるケースが増えていることが見えてくる。ソニー、パナソニックともに、今年年末以降のセールスポイントとしてフィーチャーされる「HDR」技術での優位性を訴求することで、テレビ事業を好転させることが可能と考えているようだ。

もちろん、韓国勢もHDRには取り組んでいる。しかし、HDR表示機能はメーカー間による技術差が大きく、また液晶パネルでの再現性について技術的なハードルが高い。このため、現時点ではソニーが頭ひとつリード。パナソニックも来年発表と言われる次世代液晶テレビでHDR表示品位を大きく高める。国内市場では東芝も対応を表明済みで、久々にメーカーの力が試される場面となってきている。これを”日本メーカー優位”と考える関係者もいる。

実際、IFAでは控え目な展示となったサムスンは、決定的なHDRソリューションを示せずにいる。今年1月にHDR対応テレビを”SUHD”というシンプルなメッセージだけで「他者とは違う」と差異化を図ろうとしたように、マーケティング施策で何をやってくるかわからない怖さはあるが、実際の製品力という面では大きな進捗はない。

むしろLGエレクトロニクスの方が「OLED+HDR」という先進的な組み合わせで、より積極的に製品の改良によって前に進もうとする姿勢が見えた。とはいえ、OLED技術はまだ成熟しているわけではない。生産性の問題から価格も高いままだ。OLED中心の訴求は、足元の液晶テレビ事業を脅かすかもしれない。

このような状況から、HDR技術の訴求が行われる今年の年末から来年前半にかけて、ソニーがさらにテレビ事業の収益を改善する余地はありそうだ。パナソニックもマーケティング施策次第で、グローバルでのセールを伸ばす余地がある。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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