幸福の研究 ハーバード元学長が教える幸福な社会 デレック・ボック著/土屋直樹、茶野努、宮川修子訳 ~政策転換に向けて幸福の実証研究を促す

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その意味で最近の幸福研究の狙いは、幸福を高める要因を統計的に分析し、成長自体にもはや効果がないことを実証することにある。成長限界論のように自然資源の有限性や成長がもたらす環境への影響を根拠に成長を批判することが研究の目的ではない。

著者によれば、こうした実証的な幸福研究が始まったのはわずか数十年前であり、他の社会科学の分野と比べれば未だ「揺籃期の段階」にある。このため研究成果が政策転換という形で現実の政策に反映されるまでは、なお「数世代を要するであろう」と著者は言う。

しかし、だからと言って政府は「機が熟す」まで何もせずに待っていれば良いのではない。国民の理解を高めるために最良の調査方法と利用可能なデータを用いて、アメリカ人の幸福に関する報告書を毎年公刊し、幸福への関心を喚起して、議論を促すべきだと著者は提言する。そうでなければ人々の意識も、国の政策も変わらない。

同じことはアメリカだけではなく、政権交代後も成長に固執する日本の政府にも言えるはずだ。

Derek Bok
米ハーバード大学ケネディ行政大学院創立300周年記念教授。1930年生まれ。米スタンフォード大学卒業。ハーバード大学法科大学院修了。世界的に高名な法学者で、1971~91年ハーバード大学学長。法学、政治、教育の分野で多数の著作がある。

東洋経済新報社 2730円 284ページ

  

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