国境のフェンスを超えようと群がる難民や、フランス北部カレーで列車の上に登ろうとする難民の衝撃的な映像が流れたことは、別の有害なイメージの構築にもつながってきた。それは「欧州要塞」が、押し寄せる野蛮人たちに攻撃されている、というものだ。
これは2つの点で間違っている。第一に、移住者の主要な最終目的地は決して欧州ではない。シリアからの難民のうち、200万人近くはトルコを目指し、100万人はレバノンへと向かっている。また、人口650万人のヨルダンは、70万人近くを受け入れている。一方で欧州はイタリアやギリシャにある都市から、たった4万人を移動させる計画を断念したこともある。
誤解が生んだ溺死者は2000人超
第二に、ドイツやフランス、スカンジナビア諸国、英国、ハンガリーを選ぶ少数派は、欧州の国々を破壊しに来る敵ではない。数百万人に上る欧州からの移民が一世紀前にニューヨークに近いエリス島に到着して「アメリカ・ザ・ビューティフル」と歌うようになったように、彼らは「ヨーロッパ!ヨーロッパ!」と大声で叫んでいるのだ。
だが、依然ひどいうわさもある。難民の襲来は壮大な秘密計画に基づくものであるとか、移住者が明日には列車の中でテロリストに転じるというものなどだ。まったく、ナンセンスの一語に尽きる。
以上のような誤った考えは深刻な結果を招いている。遠い昔に詩人が思いを寄せたわれらが地中海では、今年に入って2350人近い人々が溺死しているのだ(訳者注:この記事が書かれた8月末までの累計と思われる)。
しかし、大半の欧州人にとって、このような死は統計上の数字にすぎない。欧州は外国人への嫌悪で不安になり、自信喪失で憔悴し、その価値観に背をむけている。警鐘は移住者だけではなく、ヒューマニズムの伝統が壊れかけている欧州に対しても鳴らされているのである。
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