地中海を渡って来る難民を責めてはならない ヨーロッパが難民を受け入れるべき理由

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端的に言えば、欧州はこれまでも、そしてこれからも、より良い生活を求める人の流れを止めることはできないだろう。であればこそ、現下の状況に人道的かつ合法的、そして迅速に対処すべきだ。

欧州を目指す難民にとって、最も安易であると同時に最も絶望的な移動手段が船だ。海の上でパニック状態の時、助けが見えると多くの人は片側に殺到する。そうなれば船はひっくり返り、船底にいる人や泳げない人は溺れることになる。地中海での日々の救助活動では、彼らの悲鳴が絶えず耳に届く。

筆者が発行人を務めるウェブサイト「MigrantReport.org」では、こうした悲劇を文書や映像で伝えている。溺れた子どもたちの写真は特に胸が痛む。

欧州にたどり着いた難民の63%はシリア人

困窮から逃れようとする人の移動は、アフリカや中東で始まる。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によれば、2015年に欧州にたどり着いた難民の63%はシリア人だ。シリア国内と同国周辺の戦争によって難民となった人は900万人で、そのうちの約3割が食料や避難先を海外に求める。しかし2011年3月にシリア内戦が始まって以降、実際に欧州内にとどまることを許されたのは15万人にすぎない。

多くの人は、今年前半に数百人の難民が溺死したとのニュースを知ってショックを受けた。現在、イタリアなど各国海軍と「マイグラント・オフショア・エイドステーション(MOAS)」のような民間団体は、地中海でのパトロールを行っており、海上救助活動は当たり前になった。

筆者が顧問を務めるMOASは、プロの捜索救助チームを使い、「国境なき医師団」とともに難民の救援活動を行っており、これまでに子どもを含む1万人以上の命を救ってきた。また、リビア国内ではドローンを飛ばして危機的状況にある難民を確認し、いち早く彼らに手を差し伸べることができている。

今年に入り、25万人以上が海を渡って欧州にたどり着き、航海中に2000人以上が命を落とした。ここまで多くの難民が海上を漂流しているのは、欧州が難民や移民の大量流入に適切に対処するのを拒んできたからだ。

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