介護保険を「撤退戦」から守るたった1つの方法 一段と強まる給付削減と介護報酬の伸び抑制

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今の時代は、この再分配としての社会保障が政府活動のメインです。GDP(国内総生産)の2割を占めています。そうであるのに、多くの面で、政府の歳入と歳出を分けて議論している。それはおかしいだろう。そのような問題意識から、第2回政府税制調査会(2024年5月13日)で、私は次のように話しています。

今のような再分配国家、福祉国家全盛の時代に、絶対君主制の時代に生まれたカメラリズム(官房学)的な国家の収入と支出を分離した形で議論すれば、支出側面で社会保障の悪口を言って、その悪い制度の負担を国民に強いるというストーリーにどうしてもなっていくのではないのかなと思っています。だから、五公五民キャンペーンに簡単にやられてしまうのだというのが私の去年の様子を見ていた感想であります。
消費税にしても、みんなに平等に給付を行う社会保障のために消費税を使うとすると、負担マイナス給付のネットで見れば低所得者はマイナスの負担、高所得者はプラスの負担になる。そうしたネットの負担額を一人一人の所得で割った平均税率というのは、所得が増えるにつれてマイナスからプラスへと徐々に高くなっていく累進的になっていきます。したがって、逆進的と批判されている消費税を用いた社会保障目的税を充実すればするほど、(不平等を表す)ジニ係数は小さくなっていきます。 
ピケティも言うように「万人にかなりの拠出を求めなければ国民所得の半分を税金として集めるのは不可能」ですので、財源調達側面だけを見ればピケティの国、フランスが付加価値税に頼ったように、万人が関わっていく社会保険も含めて逆進的とも言われる方法で福祉国家は運営していかざるを得なくなるのは当たり前のことです。
人々の生活水準に関係するのは(市場が家計に分配した)当初所得から税と社会保険料を控除して、医療、介護、保育サービスなどの現物給付を含めた社会保障給付というものを加算した再分配所得ではないかと日頃から思っている。だから、当初所得から税・社会保険料を引いた可処分所得、手取りというものを基準にして政策を論じるには違和感がある。

所得再分配がメインである今の政府活動を考えれば、本当は、老健局、保険局、年金局、それにこども家庭庁のように、給付と財源をセットに議論しなければならない。そういう話を、歳入にのみ焦点を当てた税制調査会で話しています。

社会保障が行う時間的、保険的再分配

特に社会保障の財源調達のあり方を考えるうえでは、「消費の平準化」という考え方を理解してもらいたい。

この図の青い折れ線グラフは、年齢の高い人たち(左側)から人口を累積していったグラフ、グレーの折れ線グラフは、年齢の高い人たちから医療給付費を累積、オレンジ色のグラフは、介護保険給付費の累積グラフです。

この図では、65歳以上の人は29%です。そしてその29%の人が医療給付費の61%、介護給付費の95%を使っている。加えて、年金給付の83%ほどが老齢給付です。

要は、高齢期にどうしても必要となる消費に若いときから長く関わって、毎年の負担を低く抑えているわけです。これをわれわれの世界では消費の平準化、Consumption Smoothingといいます。

社会保障給付費の9割ほどが社会保険で、社会保険のほとんどは消費の平準化を果たしています。多くの人が勘違いしているのですが、社会保障、特に社会保険は、高所得者から低所得者に所得を垂直的に再分配するのがメインの仕事ではありません。

メインは、1人の人間の時間的、保険的再分配です。

ちなみに垂直的再分配がメインの生活保護は社会保障給付費の3%程度です(「社会保障は金持ちから貧困層への再分配にあらず」)。

次ページ消費の平準化を果たす賃金のサブシステム
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