「便利な製品」を卒業したアップルが目指すもの 新製品が「何も変わっていない」という人たちへ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ただ、ここが大手の強みで、それでも世界で数億人が使うようになったことで、あることが起きた。たまたまフィットネス機能の一環としてつけた心拍数を計る機能を使って、自らの心臓疾患を発見し、命を救われた人が続出し始め、アップルに感謝状を書き始めたのだ。

これがきっかけでアップルはResearchKitなどの開発を始める。これはアップルがいかに顧客の声に耳を傾け、そこから新しいトレンドを掴み、素早く製品開発に役立てているかの証左でもある。

強みの背後にはプライバシー保護の姿勢

こうした機能の実現には、医療系技術もさることながら、アップルのプライバシー保護に関する取り組みもモノを言っている。他社が利益のためにユーザーのプライバシーを蔑ろにする行為をつねに批判し、自社はプライバシーを保護する側だと主張してきた。

そうやって積み重ねてきた信頼が、アップル製品は安心して自分の健康情報を預けられる機器という認識を生み出し、来年以降は自分の最もプライベートな頼みごとをお願いできる電子秘書、Apple Intelligenceを広めていく上でも重要になってくる(Apple Intelligenceは日本への対応は来年以降だが、今回発表された16番台のiPhone以降から使える。正確には昨年登場のiPhone 15 Proシリーズも対応している)。

気がつけば、「何も変わっていない」と思わせるほど小さく積み上げてきた健康機能が、今では簡単には追いつけない高山のようにそびえたっている。アップルが現在、立っている境地に辿り着くのは並大抵のことではない。

日本に限らず、ガジェットが好きな人には一時的に「便利」と思わせる機能を過剰に重宝する傾向がある。その期待に応えて毎年CESなどのイベントに合わせて、積み重なることのない打ち上げ花火的な新機能の開発に注力することは消耗線でしかない。

そんな数千人を喜ばす数週間の話題に投資するよりも、5〜6年くらいかけないと実現はしないが、実現したら世界の75億人の暮らしを変えるような価値提供を目指して、少しずつ改善を積み上げていったほうdが企業のブランド力にもつながるのではないだろうか。

さて、最後にもう1つ質問しよう。あなたはこれでもまだ先日発表された新製品をみて「何も変わっていない」と言えるだろうか。

林 信行 フリージャーナリスト、コンサルタント

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はやし のぶゆき / Nobuyuki Hayashi

1967年、東京都出身。フリーのジャーナリスト、コンサルタント。仕事の「感」と「勘」を磨くカタヤブル学校の副校長。ビジネスブレークスルー大学講師。ジェームズダイソン財団理事。グッドデザイン賞審査員。「iPhoneショック」など著書多数。日経産業新聞「スマートタイム」、ベネッセ総合教育研究所「SHIFT」など連載も多数。1990年頃からデジタルテクノロジーの最前線を取材し解説。技術ではなく生活者主導の未来のあり方について講演や企業でコンサルティングも行なっている。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事