「津波に飲まれ20秒」生還果たした写真家の後悔 水中でもみくちゃにされ、天地も何もわからない
何度も津波の危機に見舞われながら、視界の悪い真夜中に帰宅することを決意した高橋さん。大事をとって庁舎で一晩過ごす、という考えはなかったのだろうか。
「“クライマーズ・ハイ”のような状態で、とにかく『取材をしなきゃ!』という思いしかなかったんですね。ここに避難していては取材ができない、自宅にカメラを取りに行かないとって。
帰宅すると電気が通っていたので、テレビで被災状況を確認しました。あぁ、東北は全部やられたのか……この状況で自分には何ができるだろうって考えながら、その日1日を終えました」。
自然災害は“想定外”のことが起きる
高橋さんは翌日から、いわき市の被災地を巡り、各メディアに被災状況を伝え続けた。そして現在、自身の経験を活かして全国で防災の啓蒙活動を行っている。
「災害が起きたとき、『まさか自分が死ぬわけない』という意識が働いてしまうんです。なぜなら“経験値”が邪魔をするから。『これまでは大丈夫だったから』と思っていると、予想以上のことが起こったときに逃げ遅れてしまう。
現在の防災対策も、これまでのいちばん大きな被害を基準に想定したもの。堤防もそう。過去いちばん高い津波から想定されて作られているから、“想定外”の津波には対応していないんです」。
「私は本当に奇跡的に生き延びることができました。死の淵に立って初めて思い知った『あ、死んじゃう。もっと早く逃げていれば……』という後悔を絶対にしてほしくない。だからこそ、災害時は想定外のことが起きると思って行動することが大切なんです」。
東日本大震災の当時、「想定外」という言葉を何度聞いただろうか。人間の想定・許容範囲を超えた領域を体験してしまった高橋さんが得た気付きは大きい。
(高橋智裕=写真 池田裕美=取材・文)
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