「虎に翼」寅子モデルが裁判官"退官後"綴った想い 5000人の非行少年・少女と向き合った三淵嘉子

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

1979(昭和54)年11月に定年で退官した嘉子が、裁判官生活を振り返りながら、裁判官のあるべき姿を書いた「少年審判における裁判官の役割」(「別冊判例タイムズ」6号、昭和54年12月)や、次世代にメッセージを送った「二十一世紀への私の遺言状」(「世論時報」昭和58年6月号)から、彼女の思いを読み解いていきたい。

裁判官と調査官は十分に理解し合うべき

少年事件では、まず、家庭裁判所調査官が、少年やその保護者と面接。少年が犯した罪の内容だけではなく、家庭環境や生活状況、親子・家族関係、交友関係などの調査を行う。裁判官は調査官からの意見を参考にしながら、司法的な判断を下すことになる。

嘉子は裁判官として、調査官と意見をぶつけ合える関係性を構築するようにしていた。こう振り返っている。

「お互いに腹蔵なく意見の交換ができなければ意味がありませんので、日頃からそういう雰囲気を作っておかなければなりません」

嘉子の場合は、調査報告書に目を通して、処遇について調査官と意見が異なれば、事前協議を行っていた。また、審判廷で調査官の意見と食い違いがあれば、別室に移ったり、少年や保護者を退席させたりして、その都度、調査官と協議を行うことを徹底していたという。

虎に翼 三淵喜子 佐田寅子
旧・奈良監獄(写真: dango k / PIXTA)

裁判官は、調査官の価値観や考え方まで把握したうえで、調査報告書を読むべきだ……とまで、嘉子は言っている。その理由について、こんなふうに例を出して説明している。

「たとえば、正義感の非常に強い人は、非行事実が悪質であると、それに対する許し難い感情から、少年その人に対する保護的援助の気持ちが薄くなることがあります。

また人情家であり過ぎると、情に溺れて厳しい教育的処遇がつい疎かになることもありましょう。これらのことは、裁判官も常に反省しなければならないことですが、調査官の人柄によってその意見に特色があることを注意していなければなりません」

また、嘉子は調査官の経験にも気を配るべきだとしている。もし、調査官に家事事件の経験が不足していれば、少年が抱える家庭の問題点を、十分に洗い出せていない可能性があるからだ。

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事