陸自の「機動戦闘車」調達は予算のムダ遣いだ

陸自機甲科の失業対策が主目的?

また機動戦闘車は車体も専用のものが開発されたが、これまた大きな無駄である。陸自は新しく、8輪装甲車を開発するが、そのバリーションとしてそのような歩兵戦闘車、あるいは火力支援車を開発すればよかった。仮に105ミリ砲を搭載するにしてもそのバリエーションとして開発すればよかった。そうすれば運用や兵站コストは劇的に下がる。逆に申せば、専用の車体を開発したことで運用兵站コストは劇的に高価になった。

実際、陸自には1990年代にそのような装甲車のファミリー化構想があり、105ミリ砲を搭載する火力支援車も検討されていた。この構想のための試作も行われたが、新たな汎用8輪装甲車の開発はなされなかった。そしてまたも個別最適化した装甲車を作り、わざわざ調達単価と運用コストを上げ、弱い兵站を圧迫している。96式自走120ミリ迫撃砲などたった24両しか調達しないのに、わざわざ専用の車体が開発された。この高コストのために陸自の装甲車は調達数が少ない上に、採用の近代化も行われず、旧式化や稼働率の低下が放置されている。そして機動戦闘車がほぼ完成したころに新型の8輪装甲車の開発が決定している。

諸外国では1980年代以降、装甲車両ファミリー化は常識であり、21世紀なってもこのような無駄な装備の開発と調達を行っているのは陸自ぐらいである。わざわざ不効率な開発を行って少ない予算を浪費し、脆弱な兵站を自らさらに脆弱化させている。

74式戦車を近代化すれば十分

ゲリラ・コマンドウ対処では10式戦車もこれを理由に開発されており、用途がダブっている。105ミリ砲搭載の車両が必要ならば、10式など開発せずに、74式戦車を近代化すればよかった。これをネットワーク化し、対戦車兵器用の増加装甲やRWS(リモート・ウエポン・ステーション)など装備を付加すればよかった。その方が安上がりだし、要員の訓練もほとんど同じで無駄がない。敵の戦車の交戦を想定せず、ゲリラ・コマンドウ対処を主任務とするのであればそれで十分である。ゲリラ・コマンドウ対処では戦車駆逐車よりも防御力が高い戦車の方が有利である。ゲリラ・コマンドウ対処では耐地雷・IED(即席爆発装置)防御力が重要だが、機動戦闘車はこの点でも脆弱である。

ゲリラ・コマンドウ対処をする場合、5個ある各方面隊に1個分隊も配備すれば十分であり、ならば近代化した74式が60両もあれば事が足りる。200車両も新たな、しかも高価で脆弱な車両をわざわざ導入する必要はない。むろん10式戦車も必要なかった。

機動戦闘車や10式戦車に、贅沢に使う予算は陸自の機甲科にはない。陸自唯一の機甲師団である第7師団は人員約6000人だが、諸外国のひと回り小さな旅団レベルにすぎない。たとえば英陸軍の1個機甲旅団は5000~6000人。総兵力は約10万人で陸自の3分の2だが、3個機甲旅団からなる1個師団を有している。

第7師団では戦車と共に戦う歩兵戦闘車である、89式装甲戦闘車は諸外国の戦車並に高価だったこともあり、第7師団ですら歩兵中隊に十分に行き渡るほど配備されていない。しかも採用された1989年以降まともな近代化もなされておらず、稼働率も低い。

さらに申せば指揮通信車をはじめ1970~90年代に採用された多くの装甲車両も同様であり、現代的な戦闘は不可能である。つまり一個旅団すらまともに整備できていない、まるで博物館のような惨状を呈している。

とても実戦を想定しているとは思えない。機動戦闘車や10式戦車のような「楽しい玩具」を導入する予算があれば、旧式装甲車両の近代化や更新、稼働率の改善、兵站組織の向上に予算を使うべきだった。

機動戦闘車はゲリラ・コマンドウ対処に向いていないだけでなく、島嶼防衛にも不向きだ。戦闘重量は約26トンであり、空自が導入するC-2輸送機以外では空輸できない。C-2はペイロードが30トンと言われているが、新聞報道などによれば機体の強度不足などでかなり減って、26トンほどという報道もある(防衛省のライフサイクルコスト報告書の平成24年度版および25年度版では、C-2のペイロードは、ペイロード8トンのC-1の3倍としている、そうであれば24トンということになる。だが平成26年度版では30トンとなっている)。

26トンであればギリギリ機動戦闘車が搭載可能である。C-2は30機ほど調達されるといわれているが、機動戦闘車1個中隊とその支援部隊、弾薬などを運べば2/3が必要となる。だが島嶼防衛では機動戦闘車の優先順位は低い。ほかの人員や装備、弾薬が優先される。多くのC-2を機動戦闘車に使用するわけにはいかない。

沖縄本島や宮古島などの一部をのぞけば、C-2が運用できる2000メートル級の滑走路は存在しない。またC-2は舗装した滑走路でしか運用できないので、急造の滑走路では運用できない。島嶼防衛を想定するならば、機動戦闘車はペイロードが約20トンで、不正地でも運用できるC-130Hに搭載できるものが望ましかった。先述の汎用装甲車のバリエーションの火力支援車両ならば、世界中でC-130Hで空輸できる車両はいくらでもある。この点でも機動戦闘車は島嶼防衛でも役には立たない。船で輸送するならば沖縄あたりに一個中隊ほどの戦車部隊配備、あるいは戦車のみを事前に集積しておけばよい。

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