神経科学がもたらす経済学の大きな革命--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授
経済学に一つの革命が起きている。その発端をたどると、思いがけないところに行き着く。大学の医学部や関連研究施設だ。脳の働きを探求する神経科学が、人間の意思決定方法についての見方を変え始めている。端的にいえば、「神経経済学」の夜明けが来たのだ。
神経科学と経済学を結び付ける取り組みの多くは過去2、3年に行われたもので、神経経済学の発展はまだ初期段階にある。科学の革命はまったく予想もされていなかった場所から始まることが多いが、神経経済学の誕生の場合もそうだ。科学においては、根本的に新しい研究アプローチが現れてこないと、その分野は不毛になってしまう可能性がある。学者は自らの学問領域における専門用語や前提にとらわれてしまうので、研究が単なる繰り返しになってしまう傾向がある。
こうした従来の方法にかかわったことのない人々から面白い発見が生まれる。新しい考えは若い学者や一部の年長の学者を引き付け、これまでと異なる科学と研究方法を学ぶ意欲が生まれる。こうしたプロセスにおいて、科学的な革命が起きる。
つい最近、神経経済学革命はいくつかの重要な節目を越えた。注目されるのは、神経科学者ポール・グリムシャー著『神経経済分析の基礎』(未邦訳)が昨年出版されたことだ。この本のタイトルは、かつて経済理論革命に貢献したポール・サミュエルソンによる1947年の古典『経済分析の基礎』を下敷きにしている。グリムシャー自身は現在ニューヨーク大学の経済学部と神経科学センターで職務に就いている。