延べ880万人、日本一のお写経道場に託された思い 薬師寺は般若心経のお写経を広める役割を果たしてきた

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2022年6月、東京・五反田にある薬師寺の東京別院を舞台とした、NHK「ドキュメント72時間」が放送された。

参加者に「お写経をする理由」を問うと、「書くとスッキリする。心が休まる」とある人は笑い、「家族の健康を願って。自己満足かもしれませんが」とある人は語っていた。放送の反響は大きく、「3カ月で約1万人の方が訪れた」と大谷さんが振り返るように、心の中にある“何か”を模索する人は潜在的に多いのだ。

「般若心経というお経は、文字の数は270文字ほどしかないとても短いお経ですが、幸せを得るためには何をどうすればいいかといった意味が込められています。先輩なら先輩、親なら親。そうした役割が皆さんにはあります。自分に与えられた役割は? 環境を理解しているのか? 般若心経のお写経は、自分自身との対話なんですね」

道場へ入ると、香象(こうぞう)という白い象をかたどった香炉をまたぎ、身を清める。輪袈裟を首にかけ、自ら墨をすり、お手本の上に和紙を重ねて、下から写る文字をなぞる。

筆ペンで書くと、和紙との相性が悪くて文字が消えてしまう可能性があるといい、和紙に関しても、異なる和紙を重ねてしまうと腐食してしまうため、正倉院に残っていた和紙を研究して作られた越前の和紙のみを使用するこだわりようだ。

「お写経をされる方に、『何か心と頭に引っかかったものがありますか?』と尋ねると、皆さん『はい』と答える。

引っかかっていたものを忘れられる

私が、『夢中になってなぞっている間のそのときだけは、その引っかかったものは忘れていませんでしたか?』と重ねて問うと、皆さん『あー!』と気が付かれる。お写経をすると、いつしか夢中になっています。夢中になると、忘れることができる。心の問題は、夢中になって忘れることにより一度自分で引きはがしてみないと消化することができません」

般若心経
約270文字の般若心経。煩悩を無いと否定するのではなく、それを乗り越えたところに素晴らしい世界が広がっていると説く(筆者撮影)
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