”パナソニック”が、中国攻略へ本格始動
国内で圧倒的な存在感を誇る松下が、中国攻略へ本格的に動き出した。はたして、内弁慶から脱却できるか。
(週刊東洋経済2月2日号より)
海爾(ハイアール)、容声(ロンシェン)……。現地メーカーが高いシェアを握る中国の白モノ家電市場で、松下が昨年夏に発売した冷蔵庫が人気を集めている。中国の一般家庭用としていちばんの売れ筋である容量210~230リットルクラスの冷蔵庫で、発売直後から予想をはるかに超える売れ行きを記録。発売から3カ月間の販売金額実績は前年の8倍以上にまでハネ上がったほどだ。
人気の秘密は、そのスリムなサイズ。中国の家庭では料理に使う油の量が多く、調理の際に油煙がたくさん出る。その影響を最小限に抑えるように、中国の家屋は伝統的に台所を狭く造るため、必然的に冷蔵庫が入る空間も狭くなるのだ。その幅は60センチ前後しかない家庭が多く、それまで松下が発売していた容量200リットル台の冷蔵庫の横幅65センチでは、すべての家庭の台所には収まらなかった。そこで松下が横幅55センチの冷蔵庫を発売したところ、都市部の若い主婦層などに支持され、瞬く間に大ヒット商品になったのだ。
2007年度上半期、松下の中国事業は前年比24%も売上高を伸ばし、地域別ではトップの伸び率を記録した。その原動力となっているのが、ほかでもない、こうした冷蔵庫などの白モノ家電である。
商品によって異なるが、中国の白モノ家電需要は日本の2~3倍もの規模を誇り、今なお成長途上にある巨大市場だ。松下は1990年代前半から本格的に中国でのエアコン、冷蔵庫、洗濯機の生産に取り組み、今では部品調達から完成品までほぼ現地で一貫生産できる体制を整備。品質面でも高い信頼を集め、中国の白モノ家電市場における「Panasonic」は、独シーメンスに次ぐ高級ブランドと見なされている。
とはいえ、中国の白モノ家電において、松下が日本でのように圧倒的な強さを発揮できているわけではない。実際、エアコンのシェアは5位前後。冷蔵庫、洗濯機は2~3番手集団にいるとはいえ、首位に2倍近い差をつけられている状況だ。
中国3大家電量販の一角、蘇寧電器。広州市内にあるその店舗を訪れると、白モノ家電の売り場には洗濯機や冷蔵庫などが所狭しと展示され、日本では見掛けないブランドがやたらと目につく。冷蔵庫コーナーの「ハイアール」「ロンシェン」などに加えて、洗濯機コーナーには「小天鵝(リトルスワン)」、エアコンコーナーには「格力」や「美的」。これらはすべて中国の現地メーカー。特にハイアールは冷蔵庫や洗濯機で推計2割以上のシェアを握る中国最大手だ。松下、シーメンス、韓国のサムスン電子、LG電子など外国企業の製品も数多く並んでいるが、市場の中心に位置するのは現地メーカーである。
理由の一つは現地メーカー製品の値段の安さ。だが必ずしもそれだけではない。そもそも、白モノ家電は中国に限らず、世界中の大半の地域で現地メーカーが高いシェアを握る。白モノ家電の商品特性がその地域の文化や生活習慣と密接に絡むからだ。
たとえば、中国では、花や草木がデザインされた、冷蔵庫と見間違えるほど大きい床置き式エアコンがよく売れる。値段は5000元超と壁掛け式エアコンの2倍近いが、実は冷暖房能力は両者とも大して変わらない。普通に考えれば不思議な話だが、現地の消費者によると、リビングに床置き式エアコンがあれば、来客の際、見栄を張れるからだという。
冷蔵庫への食品の収納方法にも日本とは違いがある。日本なら、スーパーなどで買った卵をパックから取り出して、冷蔵庫のドア収納部に付いた専用棚で保存するのが普通だ。しかし、生で卵を食べる習慣がない中国の家庭では、20~30個まとめ買いして、そのまま正面のケースに入れておくのだという。また、食べ物だけでなく、薬や化粧品も冷蔵庫で冷やすのが中国では一般的だ。