患者負担を別の患者に回す「受診時定額負担」の迷走
「高額療養費制度」をご存じだろうか。手術や高価な医薬品を用いた治療などで医療費が多額になった場合に、患者の自己負担額に上限を設ける仕組みだ。
現役世代(70歳未満)のサラリーマンや自営業者が病院や診療所で治療を受けた場合、医療費の自己負担は3割だ。ただ、1カ月の医療費が一定額を超えた場合には、高額療養費制度を利用することで、健康保険組合や市町村から多く払った医療費の還付を受けることができる。
たとえば、給与年収約210万~約790万円の「一般所得者」(夫婦および子1人からなる3人世帯)の場合、1カ月の自己負担限度額は8万円強に設定されている。
しかし、限度額が高いなど負担軽減が不十分なことから、制度の恩恵を受けられずに年間の医療費負担が年収の4割を上回るケースもありうることが判明。高額の薬剤費負担に耐え切れずに生命を絶つ患者が相次いでおり、制度の改善は大きな課題になっている。
民主党は2009年8月の衆議院選挙時のマニフェスト(政権公約)で、「高額療養費制度に関し、治療が長期にわたる患者の負担軽減を図る」と明記。
菅直人政権は「社会保障・税一体改革」における主要課題の一つに「高度・長期医療への対応(セーフティネット機能の強化)」を掲げ、高額療養費制度の改善((1)中低所得者の自己負担軽減、(2)自己負担額に年間の上限を設定)に着手する方針を明らかにした。
ところが、改善に必要な財源の捻出策として、政府が外来診療1回につき100円を徴収する「受診時定額負担」の導入検討を抱き合わせで打ち出したことに、医療界が強く反発。日本医師会など医療関連40団体は制度の導入に反対する署名活動を開始。
「当初は1回100円でも、いずれ500円、1000円になるおそれがある。低所得者や受診回数の多い高齢者に大きな負担を及ぼし、受診抑制が原因で治療が手遅れになる人も出てきかねない」(原中勝征・日本医師会会長)として「断固阻止」の姿勢を示している。