金融取引への課税はまったく見当違いだ--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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金融取引に課税すると、金融市場の流動性が縮小する。取引量が減少すると、価格の情報量もおそらく減少することになる。だが、理論上の結果も、シミュレーションの結果も、ボラティリティの明白な低下を示していない。また、非常に低い税率で極めて大きな税収が見込める点は魅力的だが、取引量が減少すると税基盤は急激に縮小する。その結果、税収増が期待外れに終わるおそれが強い。これは、スウェーデンが20年前に金融取引への課税を試みた際の経験を見れば明らかだ。

さらに悪いことに、長い目で見れば、金融取引税のコスト負担者は移り変わる。取引税が強化されると資本コストが上がり、その結果として投資が減少する。資本ストックが縮小すると、生産活動が下落傾向を示すようになり、取引税から直接得られる税収が大幅に減ってしまう。長期的には、給料が下がり、一般勤労者がコストのかなりの部分を負担することとなってしまうのだ。

金融取引への課税に欧州がこだわる理由

以上のような金融取引税の負の側面は、著名なオピニオンリーダーや政治家、博愛主義者には無視されているが、専門家にはよく知られている。事実、欧州委員会は国際通貨基金(IMF)から強い警告を受けている。IMFのエコノミストたちは、FTTのプラス面とマイナス面のすべてを指摘している。

ではなぜ、欧州委員会は金融取引税導入を推進したのだろうか。

最も寛容な解釈としては、欧州委員会はエコノミストたちの判断や分析を信用せず、FTTは一般に理解されているよりも有用だとの見方を取っているのかもしれない。確かに、中南米諸国の政府、とりわけブラジル政府は、銀行預金引き出しへの課税(荒っぽい手法のFTT)により、政策アナリストの予測を超える歳入増に成功した。しかし、中南米諸国の長期的な成長記録は、この手法の正しさを示す材料とは言いがたい。むしろ逆に、GDPの減少による税収減が、芳しくない財政状況を生み出した原因であることを示している。

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